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直径65mmの巨大脳腫瘍を緊急摘出!お妻様「5年生存率8%」に

されど愛しきお妻様【8】
鈴木 大介 プロフィール

「ヒャッハーしてましたよね」

緊急入院から4日後、何時間にも及ぶ手術の結果、お妻様の脳腫瘍の摘出は成功。担当医から「ほぼ100%切除できた」「少なくとも命は取り留めたと言える」との言葉を聞いて、僕はICUの床に腰を抜かして、目から涙、鼻から鼻水、口からよだれと、顔面から流れ得るあらゆる液体を垂れ流して立ち上がれなくなった。

とはいえ、一命を取り留めたからには最大の心配は、直径60㎜以上もの巨大な腫瘍を切除して、そのパーソナリティが失われてしまわないかだ。手術翌日、病室に行くとお妻様はすでに目を覚ましていて、スッキリした顔をしていた。

「ああ、死ぬかと思った」

返す言葉がない。

「なんかいろいろ覚えてないんだけど、そういえば夢見たよ。映画の実験室みたいな感じに、ガラス越しにICUを観察できる部屋があって、あたしベッドで寝てるじゃん。そうしたらガラスの向こう側で手術した先生たちが、三角のパーティ帽かぶって、みんなでなんかクラッカー鳴らしてヒャッハーってフィーバーしてんだよね。それで、朝に先生に『ヒャッハーしてましたよね』って聞いたら、ヒャッハーしてませんって言われた」

photo by iStock

聞いたんかい!

間違いなくお妻様だった。あの得難い性格は、失われていなかった。

「あたしの腫瘍とったところって、丸めた読売新聞入ってるのかな?」

手術翌日の夜にかけて顔面に手術による内出血の鬱血が出てきて腫れあがり、試合後のボクサーのようになってしまったけれども、とにかくお妻様としては悩まされていた頭痛がなくなったことで相当スッキリなようだ。後遺症さえなければ、多くの脳腫瘍は「腫瘍を取ってしまえば健常」と言われているらしい。けれど……。

 

膠芽腫 、脳腫瘍の中でも最も悪性が高いもの。5年後の生存率8%。

一命を取り留め、そのパーソナリティを失わずに済んだ。そんな喜びから急転直下、2011年末、主治医より告知された腫瘍の組織検査の結果は、考え得る最悪のものだった。

膠芽腫 は、腫瘍細胞が浸潤(染みわたる)ように正常な脳細胞の間に広がり、しかも外縁部はMRIにも造影されないため、手術で全腫瘍細胞を摘出することが困難で、再発率も高い。ネットで当事者や家族の発信する情報を見ても、1年そこらで再発して亡くなりましたといったものばかり。「完治はない」と断言する無慈悲な医師の言葉も散見された。

治療方針は、まず標準療法として、従来型の薬品より分子が細かく 膠芽腫に効果が見込めるとして承認されて数年の「テモダール」なる抗がん剤と、手術で摘出した腫瘍の外縁部に集中して放射線を照射する療法の併用。加えて抗がん剤の奏効率を上げる目的の治験として、インターフェロン点滴の併用。まずはこれを入院加療として集中して1ヵ月行い、その後は毎月5日間、自宅での抗がん剤服用を続けるというもの。

だが、この突き付けられた現実に、僕とお妻様の立ち位置は、あまりに異なっていたように思う。