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直径65mmの巨大脳腫瘍を緊急摘出!お妻様「5年生存率8%」に
されど愛しきお妻様【8】

ルポライターの鈴木大介さんと「大人の発達障害さん」のお妻様のジェットコースターみたいな18年間を振り返る本連載。憧れの田舎暮らしを始めた矢先に、激しい頭痛を訴えたお妻様。慌てて病院へ行くと「脳腫瘍」と診断され、そのまま意識を失ってしまい……。

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死を予感し、神に祈り自分を責める

2011年晩秋の、その日の前後のことは、思い出したくないと思っても細かな出来事や時刻まで克明に覚えている。病院で脳腫瘍と診断され、そのまま意識を失ったお妻様は、当然のことながら緊急入院となった。

目を向けるのも苦しいほどの七転八倒が始まった。お妻様は激しい頭痛に全身から大量の汗を流してもだえ苦しみ、1時間ほど意識を失うと、今度は猛烈な寒さを訴えて意識が半覚醒したり、逆に暑さを訴えて着ているものすべてをはだけてしまったりを繰り返した。起き上がって半分目が開いていても、意識はなく問いかけに答えはない。

ちょうどその時僕が抱えていた仕事は雑誌の取材記事のような動きのある仕事ではなく、ムック本の執筆だったから、僕はそうして七転八倒を繰り返す入院病棟のお妻様の横でノートパソコンに向かって仕事をし続けた。

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ふとお妻様の上半身がワイヤーか何かで引っ張られたようにスッと起き上がったので、後ろから支えようとすると、白目をむいて激しく痙攣し、口元から泡が落ちた。すぐに担当医の処置があって落ち着いたが、てんかんの発作だった。お妻様の死を予感した。

大規模で困難になるだろう手術は、入院と意識喪失から4日後に決定されたが、MRIに造影された腫瘍は本来左右均等な筈の脳の形を大きくゆがめるほどに巨大で、主治医からは手術の結果に一命を取り留めたとしても、性格に変容があるかもしれないと言われた。

一刻一刻と迫る手術を、もがき苦しむお妻様の手を握ることしかできずに待つ日々の中、僕は祈ったことのない神に祈りつつ、自分を責めることしかできなかった。

お妻様がその性格でなくなってしまうとは、どういうことだろう。負担に感じ続けていた奇行もだらしなさも、変な発言も、何もかもが、失われてしまうかもと思えば、絶対に失いたくないものだ。

働かない、家事をしない、気が利かない、たまに優しくない。それが何だというのだろう。僕は家事と結婚したいのか、気が利く人が好きなのか、僕が働かなくても大丈夫よと言ってくれるキャリアウーマンさんが欲しかったのか。

もしお妻様が死んでしまって、残りの人生をどうするのか? 再婚する? この世の中には、お妻様以上どころか、お妻様に似ている女性だっていない。少なくとも僕にとってお妻様に代わる人は、人類70億人の中に1人もいないのだ。

 

なんて人を好きになってしまったのだろう。せめて、どこにでもいる凡庸なパーソナリティの人ならば、僕はこんなにも大きな喪失に怯えることはなかっただろうに。

確かにあまり家庭運営に協力的でないお妻様に苦労してきてはいるが、それ以上に僕はお妻様に支えられてきたんじゃなかったか。僕の取材記者としての仕事は、とても危険だったり面倒くさかったりする人たちをターゲットにしてきたけど、お妻様は一言として文句を言ったことはない。言うとすれば「無事ならいいよ。お世話になった人にはちゃんとお礼するんだよ」