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経済・財政 不正・事件・犯罪
元国税査察官が明かす税金滞納処分の冷徹な現場
正直者がバカを見てはならない

「ここに描かれているのは、矛盾する仕事(租税正義の遂行と生活困窮者の救済)に葛藤しながら立ち向かう女性の成長物語だ」

市役所の納税課に勤める女性徴収官の活躍を描いたマンガ『ゼイチョー!納税課第三収納係』(慎結 著)を読んで、そう語るのは、『国税局査察部24時』の著者で元国税査察官の上田二郎氏である。

17年間マルサで悪いヤツラと対峙した経験から、上田氏がこの異色のマンガを読み解く。

正直者がバカを見てはならない

物語は、主人公の百目鬼華子(どうめきはなこ)が15年前に強制執行を受けたトラウマのカットインから始まる。

「これより国税徴収法142条に則(のっと)り、強制執行を始めます」

部屋に踏み込む数名の徴収官。

「女ひとりで子供を育てていくのに、税金なんて払ってられるわけないでしょっ」

泣き叫ぶ母親。

「泣いてもどうにもならないんですよ」

徴収官がたたみかける。

「華子ちゃんだっけ。私とすこしお外行こうか? 近くに遊歩道あるでしょ? お散歩しにいこ」

遠い記憶の中で泣き叫ぶ母の姿と、幼い華子に強制執行の現場を見せまいと部屋から誘い出す女性徴収官の姿が交錯する。冷徹な強制執行の現場が、華子の受けたトラウマの衝撃を際立たせ、滞納処分のリアリティがありありと伝わってくる。

幸野(みゆきの)市役所納税課第三収納係に勤める百目鬼華子は、クールな見かけとは裏腹に、ぶしつけな言いがかりに対しては机にペンを突き刺すなど、予測不能な行動も多い新人職員だ。

その先輩である脱力系チャラ男、饗庭蒼一郎(あいばそういちろう)とペアを組み、市民税の「ワケあり滞納者」に体当たりしてゆく。

強制執行とは、支払い義務のある者(債務者)が約束どおりに債務の支払いに応じない場合、国の権力(民事執行法)によって強制的に債務者の財産を差し押さえ、支払いを実行させる制度のことである。

債務者の中には実際には支払能力があるにもかかわらず、逃れようとする者も少なくない。そんな不公平を許していたのでは、商取引をはじめとする社会秩序が保てないため、強制的に債権を徴収する制度が確立されているのだ。

 

『ゼイチョー!』では、幼いときに強制執行を受けた経験を持つ華子が、いつしか成長して強制執行をする側に回って活躍する姿が迫力をもって描かれる。

時に華子は、強制執行に踏み切れず、苦悩する。

「そりゃー俺たちだって差押えだー 強制執行だーって 好きでやってるわけじゃないよ…でもね」

との饗庭の声に華子はこう反応する。

「税の公平ですよね」

「わかってるじゃん 仕方ないの」と饗庭。

これは国税局に長く務めた私と共通する思いだ。

誰かがやらなければ、申告納税制度が掲げる高い理念は守れない。日々の生活を懸命にやりくりしながら納税する正直者がバカを見る社会が許されてはならない――私が現役時代にいつも思っていたことである。

そして、『ゼイチョー!』が支持される理由の一つも、こんな「租税正義の遂行」にあるのではないかと思う。