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ダダ漏れなのか! ストロンチウム90が海を殺す恐怖
東電の情報操作にはもうウンザリだ!
福島第一の排気筒から約500m地点の土壌からも、1㎏当たり約570ベクレルのストロンチウムが検出された(5月8日・東電発表)[PHOTO]エア.フォト.サービス

 白血病やがんを引き起こし、海洋生物の捕食で10倍も濃縮される猛毒が1ヵ月も前にバラ撒かれていた

「4月18日に海水を採取しておきながらストロンチウムの検出発表が5月8日までずれ込んだのは、意図的なものがあったのか、単に慎重を期したのか---。いずれにしても一科学者として私見を言えば、約3週間も掛かったのは遅すぎる。放射性物質についてはいまだ科学が解明できていない領域が多いことも確かだが、だからこそ分かる範囲の事実を早急に公表することが求められます。3・11からもう2ヵ月が経ったのに、東電はそんな基本的な危機管理すらできていない」

 名古屋大学名誉教授でNPO法人「原子力資料情報室」の古川路明氏は失望を隠さない。東京電力は5月8日、福島第一原発の周辺の海で4月18日に採取した海水から、放射性物質「ストロンチウム89」と「ストロンチウム90」を初めて検出したと発表した。海水は第一原発の放水口付近と、第一、第二原発の15km沖で採取され、ストロンチウム89は1立方センチメートルあたり0・035~0・069ベクレル、ストロンチウム90は同0・0046~0・0093ベクレルで、法令限度の約8分の1から3分の1のレベルだった。

 これを受け、原発敷地外で放射能モニタリングを行っている文部科学省も今後、海洋のストロンチウム調査を実施するというが、すでに〝空白の3週間〟にどれだけの量のストロンチウムがバラ撒かれたのか分からないのだ。元日本原子力研究所室長の笠井篤氏も「何を今さら」と苛立滲ませる。

「東電は放射性ヨウ素や放射性セシウムについてはモニタリングしていたのに、ストロンチウムの海洋汚染に関しては事故後約40日が経過するまでまったく計測を行っていなかった。ストロンチウム89やストロンチウム90はヨウ素やセシウムが検出されていた時点で当然検出されるはずの物質ですから、もっと早期にモニタリングをするべきだった」

 なぜ計測が4月18日にずれ込んだのかを東電に聞くと、「すぐにはお答えできません」(広報部)

津波で被災し放射性物質の漁業被害も受けた大洗(茨城県)の漁師が肩を落とす[PHOTO]橋本昇(以下同)

 そしてなぜ結果の公表にこれほどの時間を要したのかも判然としない。

「ストロンチウムは分析が困難なためにどうしても時間が掛かるのです。またストロンチウム89に関しては、すでに(事故発生から)半減期(約51日)を過ぎています」(原子力安全・保安院)

 半減期を過ぎてから公表しても意味がないのではないか---そう聞くと、「専門の担当官から連絡させる」と言ったきり、連絡はなかった。金沢大学低レベル放射能実験施設の山本政儀教授が言う。

茨城県那珂湊の魚市場は放射性物質が検出されたコウナゴの影響で打撃を受けた

「ストロンチウムの化学分析は困難を伴う作業だが、それでも1週間から10日で完了する。分析の正確さを期しても、それにプラス1週間あれば十分でしょう」

 前出・古川氏も同意見だ。

「私の研究室で分析の依頼を受ける場合、『1週間下さい』と言います。更に厳密にということであれば、『もう1週間期間を下さい』と言う。3週間は必要ありません。国民の生命を脅かす事態を招いておきながら、あまりに悠長です」

 これでは情報操作だと批判されても仕方ない。ストロンチウム89の半減期を過ぎてから公表した裏には何か魂胆があったのではないかと訝りたくもなる。言うまでもないことだが、国民の大半はもう東電や保安院の情報を信じてはいない。

造血器官に放射線が当たる

甲羅だけではなく、腹の部分にも斑点があるカニも多く水揚げされていたという[PHOTO]桐生広人

 これまでストロンチウムの危険性は、ヨウ素やセシウムに比して十分に報道されてこなかった。海や人体へは一体どんな影響があるのか。海洋生物環境研究所の渡部輝久氏が解説する。

「ストロンチウムはアルカリ土類金属に属す放射性物質で、89の半減期は約51日、90の半減期は約29年とされています。海水に流れると、海洋生物の捕食によって最大10倍に濃縮される。魚などの水産物から人体の中に入ると骨に溜まります」

 前出・笠井氏が補足する。

「ストロンチウム89、90はカルシウムと同じ働きをして骨に沈着し、造血器官に直接ベータ線を当てるので、白血病やがんの原因になります。体内に入ったセシウムは約100日で半分に減りますが、ストロンチウム90は半分に減るまでに約3000日掛かるとされています。ストロンチウムが沈着する骨はセシウムが沈着する筋肉に比べて代謝が遅いため、体内被曝においてはストロンチウムのほうがより危険なのです」

 フランス北西部の使用済み核燃料再処理工場「ラ・アーグ再処理工場」でも、長期にわたり海へストロンチウムが放出され問題となった('03年の年間放出量は515億ベクレル)。現地を取材したフォト・ジャーナリストの桐生広人氏が見たのは、地元漁師たちの嘆きだ。

甲羅にできた黒い斑点のため、売り物にならなくなったラ・アーグ沿岸のカニ[PHOTO]桐生広人

「私が'99年に訪れた時、地元の漁師たちは名産だったカキやオマールエビなどの漁獲量が減り、甲羅に黒い斑点がある異常なカニや、肝臓が青や赤に変色したタラなどが、ラ・アーグの排水口付近でよく揚がるようになったと顔を曇らせていました。沿岸では白血病に罹る子供や先天性異常が多発していましたが、ラ・アーグとの関係性については謎でした」

 福島沖で検出されたストロンチウムは原子炉建屋の水素爆発、核燃料の溶融、東電が排出した汚染水、そのいずれかによるものか、もしくはそのすべてが原因だと前出の専門家たちは考えている。

ピットから流出していた汚染水にもストロンチウムが含まれていた可能性が高い[PHOTO]東京電力提供

「『冷やす、止める、閉じこめる』の大原則が遅々として進んでいない。今後もストロンチウムが漏れ続ける可能性は、否定するほうが困難です」(京都大学原子炉実験所・今中哲二助教)

 ダダ漏れが止まらないなら、せめて東電は正確な情報を公開すべきだ。国民の苛立ちは、もはや怒りに変わっている。

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