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医療・健康・食 ライフ 週刊現代
ミスを犯しても、世襲でも、名医が名医たる所以とは何か?
臨床の現場は感動の連続

本当に患者想いの医者とはどのような医者なのか。

医学ジャーナリストの松井宏夫氏が語る。

「あるとき経験豊富で誰もが名医と認める外科医が、大腸の内視鏡手術でミスを犯したことがありました。

幸い大事には至らなかったのですが、その先生はなぜミスを犯してしまったのかを患者さんや家族に丁寧に説明し、理解してもらったそうです。

ミスを認めてしまったので、その患者さんはもう病院には来てくれないだろうと考えていたそうですが、逆にそのようなコミュニケーションを行ったことで信頼感が高まったのでしょうか、今でも通ってきてくれるといいます。

手術をしたらそれっきりという医者も多いなか、評価の高い先生ほど術後も頻繁に患者の顔を見に病室に足を運んでいる」

血液内科の看護師として都内の病院に勤務経験のある樋口朝霞氏が語る。

「私の働いていた病棟では状態の悪い患者さんも多かったのですが、ほとんど自宅に帰らないで四六時中治療について考えているお医者さんもたくさんいました。

自分の身なりにかまっている暇もなく、髪はいつもぼさぼさ。夜中や休日に問い合わせがあって、院内にいないとつながらないはずのPHSにかけても、いつでも出てくれる人もいました」

このように本当に患者のことを考えて身を削って働いている医者も確かに存在する。昭和大学横浜市北部病院の南淵明宏教授が語る。

「長期的な視野に立って、患者さんのその後の人生についても考えることができる医者はなかなかいません。

でも本当に良い医者は、患者さんからパワーをもらって働いている人が多いですね。医者は患者さんの勇気を目の当たりにします。逆境にも負けない強さを見せつけられます。彼らは恐怖を打ち消し、家族のため、従業員のためにまさに命がけで手術を受けるのです。

病院は、患者を通して人間の強さを思い知らされる場所です。臨床の現場は感動の連続なのです。感動が多いほど、技術も磨かれるし、仕事にも情熱を傾けるようになる。でも、そういう状況に無頓着というか、無関心な医者もいるのは残念です」

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世襲にも「名医」はいる

医師で新渡戸文化短期大学名誉学長の中原英臣氏は、自身ががんを体験したこともあり、「大きな病気を見つけてくれるかどうかが、良い医者の条件だ」と語る。

「私は5年前に咽頭がんにかかりました。

これを見つけてくれた耳鼻科の先生は素晴らしい先生でした。私はただの風邪だろうと思っていたし、普通の内科にかかっていたら風邪薬を出されてそれでおしまいだったでしょう。そうしたら今頃、生きていなかった。

その先生は二代目の開業医でした」

世間では世襲を悪いものと決めてかかりがちだが、必ずしもそうとは言えないと中原氏は言う。

「新規に開業するためには不動産を借りたり、医療機器を揃えたりするために莫大な資金が必要になります。そうすると資金を回収するために、どうしても多くの患者を効率よく診ることばかり考えがちになる。

しかしその耳鼻科は先代から引き継いだ基盤があるので、おカネに困っていませんでした。私の場合も実に細かく調べてくれてリンパ腫のはれに気付き、MRIによる精密検査でがんが見つかったのです」

こう考えると街中の超一等地に新規開業したり、派手な広告を打ったりしている病院は要注意。経営のために巨額の資金がかかっているので、どうしても患者よりもカネに関心が向かう医者が多くなるからだ。

一方で、銭勘定や出世競争とは無縁の良医もいることは確か。そのような医者に出会えた人は幸せだ。

 

「週刊現代」2017年5月20日号より