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1億円稼げるようになったって、幸せになんかならない理由

ジェーン・スーが語る「お金と私」
30代の働く女性を中心とした読者を持つ女性誌『FRaU』と、現代ビジネスのコラボレーション企画が実現。仕事、おカネ、恋愛、オトコ…現代社会をサバイブするために考えなければならないことをテーマに、いま注目を集める3人の女性筆者が書き下ろした特別エッセイを公開します。

お金で買えるか否かは売り手次第

お金で買えないものって、なんでしょう。愛情? 信頼? 時間? そのどれもが正解であり、同時に必ず反論が出ます。「お金で買えないものなんか、ない」と。

そりゃ健康とか家族とか、一般的に言われていることには半ば同意します。しかし健康を維持し、病気を早期発見するのにお金は有用だし、家族の仲だってお金の心配がない時の方がうまくいくでしょう。

地獄の沙汰も金次第とは言うけれど、お金に振り回される人生は御免。だから、お金で買えないものをバシッと見極めたい。なのに、なかなか納得できる説にめぐり会えずにいました。

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さて、ネットで見たのか本で読んだのか忘れましたが、ある日突然、私は「お金で買えないものなんてあるのかよ論争」に終止符を打つ一文に出会いました。曰く、「お金で買えないものは、売り手が売ることを承諾しないもの」。なるほど。

確かにお金でなにかを買う時には、必ずそこに売り手がいました。信用を得るための見せ金の場合でも、信用という無形の価値を売る相手の存在があります。

いわゆるプライスレスとは、貴重なものや体験だけを指すのではなく、売り手が値を付けないもののことも指す。「買う」という行動は「売る」という商行為が大前提なのです。

私が見た文章には、「嵐のなか今にも沈みそうな船に大金持ちと一緒に乗っていたとして、あなたのライフジャケットを10億で譲ってくれと大金持ちに言われても、あなたは首を縦に振らないでしょう」とありました。なるほど。死んでしまったら、10億あっても意味がないものね。

私にひどい借金とそれに苦しめられる家族がいて、これですべてがチャラになるのならば首を縦に振るかもしれません。その場合、私は「自らの命を金で売ることにした」となります。よって、売り手が承諾しなければ取引は成立しないという説が破たんすることはありません。

お金で買えないものは、相手が売ることを承諾しないもの。

人によって「お金で買えないもの」の答えがまちまちになる理由がわかりました。お金で買えるか否かは、売り手次第なのです。

 

稼げば稼ぐだけ不安が募る

さて、安心はお金で買えるでしょうか? ある程度までは、お金が担保してくれると思います。しかし問題は「ある程度」が「どの程度」か、時と場合によって変化していく点。

以前、こんな話を聞いたことがあります。稼げる人になろうとがむしゃらに働いて、1億稼げるようになった人の話です。

年間1億円も稼いだら、身も心も平和になるに違いない。私はそう思っていました。しかし、彼は言ったのです。

「1億稼げるようになると、隣に、3億稼ぐ人が座るようになるんだ。3億の生活と、3億の安心を目の当たりにする。そうすると、1億くらいじゃどうにもならないと思うようになる。また働く」

なんと恐ろしい。稼げば稼いだで不安が募るだなんて。のちに3億稼げるようになった彼は、隣に5億稼ぐ人が座るのを見て安心を金で買おうとするのをやめたそうです。キリがない、と。