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「創業300年、大きな経営危機は明治維新のときでした」
老舗「沢の鶴」社長に聞く
週刊現代 プロフィール

自分だけの「筋と型」を持て

【異筋】

趣味は読書、囲碁、ゴルフです。囲碁には「筋」という攻守の基本的な形があります。「本筋」は本来あるべき手筋、「ヘボ筋」は本筋を覚えきっていない者が陥りがちな筋。その中に「異筋」というものもあります。

一見、相手の虚をついた華やかな手に見えるのです。しかし、異筋に本筋で対応されると、結局ガタガタと崩されます。このあたり、経営に似ているかもしれません。

【悠々と】

座右の銘は「明見自性、自在悠々」。前半の「明見自性」は「自分の性格、性質を明らかに見よう」という意味です。後半は「悠々と自在にできる」という意味でなく、「おのずから悠々とあることができる」という意味です。

若い頃は、いろんなことをやって、無理をしてもいい。筋や型のような「やり方」は、そこからあえて外れたこともやってみて、初めて身に付くものだからです。

でも、年齢を重ねたら自分の筋や型をしっかり持って、無理をしたらアカンのかな、と思います。

 

【本筋】

当社の人気商品は「米だけの酒」です。なかでもアルコール度数10・5度の商品が売れています。

最近は強いお酒が苦手な人が増えていますが、日本酒を真っ正直に醸造し、度数を低くおさめるのは非常に難しかったのです。そんななか当社は、糖類や酸味料を加えることさえせず、低アルコールで深みがある味を実現しました。私はこれ、まさに「夢の日本酒」だと思っています。

先日は年配の方から「最近、酒が体に重くなってきたけど、これはすいすい飲める」とお手紙をいただきました。有り難く思うと同時に「飲み過ぎたら同じなんちゃうん?」と心配にもなりましたが(笑)。

【天変地異】

創業から300年の間に、様々なことがありました。

大変だったのは明治維新。様々な藩に掛け売りしていたのですが、幕藩体制が崩壊し代金をいただけなかったのです。

次が日露戦争。日本は戦後、ロシアから賠償金をとれず、当時の政府は嵩んだ戦費を支払うため、いたしかたなく酒税を大増税したのです。

その次は第二次世界大戦。大阪大空襲で本社が焼け、戦後は有史以来の米不足。この時は鶏や豚を飼育し、急場をしのいだときいています。そして最後が阪神・淡路大震災。煉瓦造りや木造の蔵が全壊し、不動産を売却して復旧しました。

天変地異や政変は、当分ないような気がしたころにまたやってくるものなのでしょう。

【乾杯】

実は「日本酒で乾杯推進会議」という集まりの委員長をしています。結成12年で、会員は約3万8000人。「10月1日の日本酒の日は日本酒で乾杯しよう!」と働きかけていて、昨年は7万7000人が参加してくれました。

いま、全国で消費される様々な酒類のなかで、日本酒の割合はたった6・7%。

国酒のシェアが1割を切るのは、やはり寂しいものです。我々も本物の味を守り、絶えず新商品開発の努力をしていきますので、皆さんもぜひご支援下さい。

(取材・文/夏目幸明)

西村隆治(にしむら・たかはる)/'45年、大阪府生まれ。京都大学法学部から同大学院へ進み、'73年に博士課程修了。法学部助手を経て、'74年に沢の鶴へ入社、'84年から現職。その後、兵庫県酒造組合連合会会長、日本酒造組合中央会理事などを歴任し、'14年『灘の蔵元三百年 国酒・日本酒の謎に迫る』を上梓

週刊現代』2017年5月20日号より