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週刊現代

16年ぶりの20代新名人・佐藤天彦が明かす「劣勢の巻き返し方」

理想を現実化する思考法とは

普遍的な棋力を身につけたい

――昨年、羽生善治さんを破り、「名人になる」という子どもの頃からの夢を実現しました。『理想を現実にする力』ではそんな佐藤名人が、理想を現実にするための考え方を解説しています。まず、苦しいときこそ「将棋を楽しむ」という思考法から教えてください。

将棋は勝負事なので当然、勝ち負けがあります。形勢に差がついた苦しい局面は勝敗のことだけを考えると辛いだけですが、そもそも将棋というゲームは、「劣勢のとき、どう巻き返すか」というのも醍醐味の一つ。そういう思考ができれば、どんな状況になっても楽しむことができるはずなんです。

将棋だけでなく、人生も同じだと思います。僕は今29歳ですけど、50歳や60歳になったとき、今の自分をどう思い出すだろうと考えると、多少、壁にぶち当たっていくのもいいんじゃないかと。

あまりに順風満帆な人生では、逆に面白くない。次から次に壁が立ちはだかる人生は、そのときは大変でも、後から振り返るとドラマチックに映って面白いのではないでしょうか。

――プロになってからは流行の戦法にとらわれず、歴史に残る永世名人の「棋譜並べ」を繰り返したそうですね

目の前の相手に勝つことだけを研究する方法もあるわけですが、そういうアプローチだけでは最終的に「名人」に手が届かないのではないかと思ったんです。それよりも、偉大な棋士に学んでしっかりと土台作りをし、どんな相手でも対応できる普遍的な棋力を身につけることが大切だと考えました。

大山康晴先生や中原誠先生の時代と今とは指す感覚が違うところもあって、彼らの棋譜を並べてもすぐに役立つとは限りません。でも長期の視点に立って、着実に力を身につけたほうが、後々楽になるんじゃないかと研究を続けました。

 

――最終的にそうした努力が実を結ぶことになりますが、結果が出るまでは時間がかかりました。デビューから4年間、スタート地点のC級2組から昇級できませんでした。

同じ世代の人に先を越されていくのは、もちろん悔しかった。でも現実に起こっていることは、ある程度の妥当性があるはずです。先に昇級した人たちの強さには理由がある。感情に走らずに分析すれば結果にも納得することができます。

なかなか勝てないときは、どうしても感情的になりがちです。感情が先に立つと、それに合わせて後付けで論理を組み立ててしまうことが多い。そうした考え方を少しでも減らしていくように注意しています。

また、敗北感を引きずると自分を責める気持ちが出てきて、なぜ負けたのかを冷静に分析できなくなる。過剰に自分を責めないことも大切だと思います。