経済・財政 アフリカ

ピケティと並ぶスター経済学者が政策研究にもたらした「ある革命」

世界の貧困とこうして闘え!
峯 陽一 プロフィール

「魔法の杖は存在しない」

ただし、この結論にはいくつかただし書きがある。

第1に、上記のような政策の序列づけは、何を達成しようとするかという社会の目的によって変わってくる。

社会保障給付金は高くつくけれども、その目的は、何よりも所得を貧困層に再分配することであり、その副次効果として子供が学校に行くようになれば、それはそれで素晴らしいことじゃないですか、となる。

逆に、教育の利益を説明したり、寄生虫を撲滅したりしても、それが再分配の改善にすぐに貢献するわけではない。費用便益計算は、どのような便益を増やしたいかという社会的な意思を前提として、はじめて意味をもつのである。

第2に、いろいろな場所で調査を繰り返してデータを蓄積してみないと、結論が普遍的なものかどうかはわからない。

アジアでもアフリカでも、ヨーロッパでもアメリカでも、多くの国々で同じ政策に同じような効果がある(あるいは、ない)ことがわかって初めて、評価が確立することになるだろう。工夫をしながら、あちこちで繰り返すことが大切だ。

第3に、教育の効果を真剣に考えるのであれば、子供が学校に行くだけで満足していいのか、ということがある。

ドロップアウトが減るのはよいことかもしれないが、たとえ学校に行ったとしても座っているだけで、実際には何も学んでいないかもしれない。学力を測り、教育の質を検討することが大切であり、教員のモチベーションを高めることが重要である。

 

本書ではRCTの実験結果の紹介と分析が続き、「なぜこんな結果が出るのか」「なるほど、そう解釈するのか」という、謎解きのような調査結果と分析結果が満載されていて、とても興味深い。

デュフロ氏の姿勢が信頼できるのは、性急に結論を出すことを控えているからだ。この先のことは実験を繰り返してみないとわからないが、という留保が何度も出てくる。

そうすると、デュフロ氏たちの論文を読む経済学者たちは、「よし、自分たちのチームで続きをやってみようじゃないか」という気になる。RCTが世界中で広がってきたのも当然だろう。

デュフロ氏は開発経済学者だが、RCTの手法は途上国に限定される話ではない。今回紹介した教育改革についても、子供への奨学金や、教育の効果に関する説明会など、日本も含めた先進国でも客観的な効果を計測してみたいテーマが多くある。

予算が限られて、かつてのような「ばらまき」ができない時代だからこそ、エビデンスに基づいて確実に効果があがる政策に投資する必要があるのだ。

しかし、デュフロ氏は本書の末尾を、「魔法の杖は存在しない」という言葉で締めくくっている。当たり前のことだが、RCTもけっして万能ではない。次はこのあたりについて、稿を改めて書いてみることにしたい。