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もしも身近な人が自殺してしまったら、私たちはどうすればいいのか
自殺と向き合う精神科医の告白

自殺のことを書くのはつらい。

どうしても、主治医としてかかわったのに自殺を防げなかった患者さんたちのことを思いだしてしまう。偉そうに、分かったような顔をして「こうすれば自殺を防げる」といった書き方をする気には、とてもなれない。

 

自殺が起きてしまったら……

日本における代表的な自殺研究者である高橋祥友は、『自殺のポストベンション 遺された人々の心のケア』の中で、「既遂自殺や未遂自殺が1件生じると、その家族、友人の最低5人は深刻な心理的影響を受ける」と述べている。

さて、警察庁によると平成28年の日本における自殺既遂者が21897人だった(「平成28年中における自殺の状況」)。自殺未遂者は少なく見積もって自殺既遂者の10倍は存在すると考えられる。大ざっぱな計算だが、22000人×(10+1)×5で121万人ほどの人が、平成28年中に身近な人の自殺に関連した行動で心に強い衝撃を受けたと予想される。

前掲の高橋の書物では、自殺で残された人々の心理として現れうることに、「驚愕」「ぼう然自失」「記憶の加工」「否認、歪曲」「自責」「抑うつ」「不安」「疑問」「怒り」「他罰」「原因の追究」「周囲からの非難」などが挙げられている。

非常に多くの人が、身近な人の自殺によって多岐にわたる複雑な心理的な影響を受けている。しかし、そのような心情は語られたり慰められたりということがあるのだろうか。おそらくは、誰にも話せないという形で、心に秘められたままとなっていることが多いだろう。

高橋によると、自殺のポストベンション(あえて訳すのならば「事後対応」)とは、「不幸にして自殺が起きてしまった後に、遺された人に及ぼす影響を最小限度にするために、こころのケアを行うこと」を指している。

そして、自殺が起きた後のポストベンションについては、今までほとんど関心が払われてこなかったという。このポストベンションが、将来に向けた予防(プリベンション)になるとも言われている。

ちなみに、英語圏では自殺予防について、事前予防(プリベンション)、危機介入(インターベンション)、事後対応(ポストベンション)の3つが重要と考えられている。やはり事前予防、危機介入に比べて、事後対応の本邦への導入が遅れていることは、明らかに思える。

さて、そのような状況を踏まえてここでは、身近な人、つまり一生懸命に診療に当たっていた患者さんの自殺を防げなかった精神科医が書く、ポストベンションを意識した文章である。