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地震・原発・災害 週刊現代

「120棟全焼」糸魚川大火災「火元ラーメン店主」が初告白

人知れず引っ越していた…

謝ることもできなくて

「本当に皆様には申し訳のないことをしました。まだきちんと謝ることもできていません。いずれは、そうしたいと思いますが、なにをどうすればいいのか……。これからのことなど何も考えられません。いまは生きていくことでいっぱいです」

消え入りそうな声でそう語るのは、'16年12月22日に発生した新潟県・糸魚川市大規模火災の火元となったラーメン店主である。

前代未聞の惨事となったこの大火災は、最終的に約4万平方メートルにわたって燃え広がり、147棟の建物が焼損、うち120棟が全焼した。被害総額は推定30億円にも上る。

被害を受けた住民の多くは今も市内のアパートに仮住まいしている。家を買い替えるほどの保険金が出た住民はごくわずか。大半の住民は将来の目処の立たない中、不安を抱えながら暮らしている。

なおかつ被災者は、いまだに火元となったラーメン店主一家から直接の謝罪を受けていない。親しく交際していた幼馴染や近所の住民たちも彼らの所在を知らない。

そんな状況も影響し、悪意ある噂が流れている。

「店主は保険金をもらって、新しい家で優雅な暮らしをしている」「毎日パチンコをして遊んでいる」「計画的に火事を起こした」など、地元で聞かれる根拠のない噂話は枚挙に暇がない。

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玄関に現れた裸足の店主

ラーメン店主の実姉は本誌にこう語る。

「弟も家を失った方の怒りは承知しています。本当に取り返しのつかないことをしてしまった。私の耳にもいろいろな噂が入ってきていますが、何を言われても仕方ないと思います。

ただし、言われていることはすべてが事実ではありません。火事の後、弟がパチンコ屋に行っているという話があるようですが、そんなわけありません。火災後、弟はほぼ毎日朝から警察の事情聴取に応じて、それこそ言う必要がないことまで包み隠さず話しています。

弟はあの日以来、すっかり憔悴しています。それこそ自殺してしまう可能性もあり、火災の後しばらくの間、私が変な気を起こさないように目を光らせていました。ただし、いまはここにはいません。弟はもう年ですし、お店を再開することもないと思います。いずれにしても、大変なことをしてしまった。ただそれだけです」

ラーメン店の店主一家は、とある古い家屋に人知れず引っ越し、ひっそりと暮らしていた。

昼間にもかかわらず、カーテンは閉められ、洗濯物など生活感を感じるものは一切ない。店主夫妻と長男はほとんど外出することもないようだ。

今年2月から本誌は幾度か店主を訪ねている。玄関に現れた小柄な店主はパジャマ姿で足元は裸足だった。身を屈めて俯きながら店主は重い口を開いた。

「なにかご用でしょうか。私たちはいま、取材を受ける気はありません。ただ謝ることしかできません。皆さんに大変な迷惑をかけているのはわかっていますが、大人しくしていたいんです。

いろいろなことを言う人がいるのもわかります。勝手な噂を立てている人がいるんでしょうが、それに対して、ああでもないこうでもないと反論する気もありません。静かにさせておいてほしいんです」

――悪意ある噂の誤解を解かないと「糸魚川に住めなくなる」と心配している友人の方もいます。

「住めなくなれば住めなくなるで仕方ないと思っています。住めなくなる場合だってあるでしょう。ここにもどれだけいるのか。知られてしまったら知らない土地に行くことになるかもしれない」

――ラーメン屋を復活させる気持ちはないんでしょうか。

「いまはそれどころではないですよ。(家族の間でも)ラーメン屋の話はもう全然出ていません。私たちのやる気がないとかあるとかの問題ではないと思います。

あの日のことは話すことができません。私が悪いんです。鍋を火にかけたまま店を出て自宅に戻ってしまったから……。あんなことになるとは考えてもいませんでした。お願いですからもう帰って下さい。失礼します」

 

現場となったラーメン店はすでに取り壊され、あたり一帯の再開発計画が進められようとしている。

だが、瓦礫は撤去されているものの、焼け焦げた樹木は痛々しく、残されていた折れ曲がりさびが浮いた鉄骨の一部や、むき出しのコンクリの基礎部分は今なお生々しい。

「週刊現代」2017年5月6日・13日合併号より