教育 子育て

「ママ、出てくわよ」子育て中の脅し文句が子どもに与えるコワイ影響

世代間連鎖を防ぐ子育て論(2)
信田 さよ子 プロフィール

これは、親が子どもに嫉妬すると言い換えてもいいでしょう。

親というものは、自分にできなかったことを子どもにさせてあげるものだ、それが親ごころだと考えられてきました。おそらくマユミさんもそうでしょう。

妊娠すると、多くの女性は自分が親からされたこと、されなかったことについていろいろ思い出すものです。

特に母親からされていやだったことについては、「ああいうことは子どもには絶対したくない」と誓います。母親の口調がいつもきつくて怖かったひとは、自分の子どもにはやさしく静かに話そうと思うでしょう。

同時に、母親からしてもらえなかったことを、子どもにはやってあげようと思うのです。子どもを欲しいという願望には、満たされなかった子ども時代を、自分の子どもをとおしてやり直そうとする欲望が含まれていることがあります。

たとえば、抱きしめてもらった記憶がないひとは、一生懸命子どもを抱きしめてスキンシップをはかろうとします。

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しかし、それはすんなりといくわけではありません。誰かに支えてもらったり、そんな自分を認めてもらいながらでないと、限界が来てしまいます。

一生懸命になればなるほど、子どもがそれに応えてくれなければ、疲れは溜まります。そしてイライラして腹立たしくなるのです。

マユミさんのように、自分は母親から無造作に扱われ、ひどい言葉を投げかけられていたひとは、母親からここまで注目されエネルギーを注がれているわが子がたとえようもなく妬ましくなるのです。

わずか1歳半の息子なのに、天真爛漫であることがとてもぜいたくでわがままに思え、子どもにあやまらせたくなったり、腹立たしく思えるのです。

このような嫉妬は母親だけでなく、父親にもしばしば見られます。

 

子どもへの嫉妬に気づかない

簡単にまとめると、マユミさんは子どもに嫉妬しているのだと思います。

通常、親は子どもに嫉妬などしないと考えられています。力を持っている親が持っていない存在の子どもに嫉妬などするはずがないのです。

だから、親は自分の嫉妬に気づきません。むしろ子どもがわがままでぜいたくで、言うことをきかないのだと考えます。

そして、子どもに毎回そう言って聞かせるようになります。

「なんてわがままなの?」

「ママを怒らせるあんたが悪いんでしょ」

いつもいつもそう言われれば、柔らかい脳にその言葉は刻印され、成長するにしたがい、本当に悪い子でわがままなんだと信じ込み、それが自己像として形成されることになります。

多くの母親たちは、娘や息子が成長していくことを一見喜んでいるように見えますが、思春期あたりから息子と娘では対応が異なってきます。

同性である娘がキラキラとして幸せそうな顔をしていると、「いい気になるんじゃない」などと、透明な水に真っ黒な墨を一滴垂らすような一言を投げつけたりします。

しかし母たちは、自分が娘に嫉妬しているなどと思いません。娘がふしだらにならないよう、親心から慢心を諫めていると思うのです。

私の言葉を聞いて、マユミさんが自分の嫉妬に気づかれたとすれば、それだけですばらしいことだと思います。

つくられた逆転

親が、自分が腹を立てたことを「自分の問題」ではなく、「腹を立てさせた子どもの問題」であるとする。これと同じ構造が、性犯罪でも、DVでも起きています。

痴漢する自分の問題ではなく、電車の中で短いスカートを履いている女子高生が悪い、妻の側が自分を怒らせたのだ、といった主張です。

親が、自分の問題を子どもの問題とすることは、こういった主張の底流に流れるものと同じではないでしょうか。虐待が生まれる背景には、このような逆転(相手がそうさせているのではないか)が起きています。