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盟友バノンを切ったトランプは「白人労働者」をも裏切るのか?

最大支持層「オルタライト」への逆心

たった3ヵ月で始まった軌道修正

アメリカ・トランプ政権が誕生して3ヵ月が経つ。当初の勢いはまるで「トランプ革命」あるいは「ポピュリズム革命」が始まったのではないかという強烈な印象を与えた。しかし、その勢いは急速に衰えつつある。

議会や裁判所の反対による相次ぐ政策の頓挫の果てに、ホワイトハウス内の権力抗争が起こり、トランプ政権は軌道修正を始めた。

その抗争とは、大統領選挙でトランプ候補の当選を支え、トランプ政権のイデオロギーの担い手であった「オルタライト」と呼ばれる白人至上主義者で、自由貿易を否定する経済的ナショナリズムを唱えるスティーブン・バノン首席戦略官と、政策を現実的な共和党主流派の政策に引き戻そうとするジャレッド・クシュナー大統領顧問やゲーリー・コーン国家経済会議委員長などの「グローバリスト」と呼ばれるグループ間の確執である。

スティーブン・バノンスティーブン・バノン photo by Getty Images

グローバリスト派は、自由貿易主義で、安全保障面での国際的なコミットメントを重視する。移民問題も規制一本やりはアメリカにとって好ましくないと考えている。これに対して、オルタライト派は不法移民や自由貿易が白人労働者の低賃金の原因であると主張し、安全保障政策では孤立主義を主張している。

またグローバリスト派は、イデオロギー過剰な政策を続ければトランプ政権は厳しい状況に直面することになると、より現実的な共和党主流派の政策への転換の必要性を説いている。

ジャレッド・クシュナー イバンカ・トランプジャレッド・クシュナー(右)、イバンカ・トランプ photo by Getty Images

4月のシリア空爆と北朝鮮への圧力を境に、外交安全保障面では孤立主義を説くバノン首席補佐官は力を失ったとみられる。しかし、このことは、大統領選を主導したオルタライトと政権が早くも手を切り、支持層の根本的な要求である経済ナショナリズムの面でも政策転換に向かうことを意味しているのだろうか。

 

「オルタライト」はどんな思想の持ち主か

オルタライトとは「オルターナティブ・ライト(alternative right)」のことで、字句通りに訳せば「既存の保守主義に代わる右派」という意味になる。この言葉は、白人至上主義者、白人国粋主義者のリチャード・スペンサーが最初に使った。この運動は既存の保守主義運動を批判するグループによって担われてきた。

アメリカ政治は、これまで常に「保守派対リベラル派」の枠組みで語られてきたが、オルタライトの登場で政治論議の枠組みが大きく変わった。オルタライトは思想的には保守主義であるが、伝統的な保守主義者や共和党主流派、さらに主流派メディアに対して厳しい批判を加えるのが特徴である。

オルタライト運動は統一されたものではない。さまざまな主張をするグループで構成され、必ずしも一致した哲学や理念が存在するわけではない。共通しているのは、既存の保守主義運動に対する批判である。

保守的なキリスト教倫理を重視する過激な伝統主義者、白人至上主義者、人種差別主義者、反移民主義者、女性差別主義者、国際的孤立主義者、反イスラム教主義者、反ユダヤ主義者とさまざまな形で特徴付けることができる。また、リベラルな民主主義や文化的多元主義、平等主義、普遍主義を否定するのも共通な特徴である。

同時にエスタブリッシュメントやエリートを批判し、社会から忘れられた大衆の立場に立つポピュリストでもある。彼らは、白人労働者は社会から見捨てられたと主張している。ウエブサイトやフェイスブック、ラジオのトークショーなどを通して煽情的で刺激的なメッセージを送ることで着実に支持者を増やしてきた。

オルタライトは世界を「善と悪の間の闘争」が行われている世界だと信じているという指摘もある。思想史的にいえば、パット・ブキャナンに代表される「パレオコンサーバティブ(paleoconservative=超保守主義)」の精神構造に近いといえる。

オルタライトの台頭の背景には、従来、白人国家であったアメリカで、白人が少数派に転落することに対する苛立ちがあった。彼らが移民政策に強固に反対するのも、白人優越の社会が崩壊することを怖れるからである。

彼らは、共和党や伝統的な保守主義者は、それを阻止するのではなく、促進しているとみている。共和党主流派が大企業や金融機関を優先する政策を取り、白人労働者を無視してきた結果、白人労働者が国際化の最大の犠牲者となったと主張している。

白人労働者は自らの主張の代弁者を持たず、「忘れられた人々」「サイレント・マジョリティ」と呼ばれていた。オルタライトは、そうした人々の代弁者として登場し、また大統領選でトランプ候補も共和党主流派に挑戦するためには彼らの支持を必要としたのである。