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ホストの売掛金を踏み倒し、泥沼にハマった23歳女のやるせない事情
オンナの収支報告書【17】
鈴木 涼美 プロフィール

飲んだら稼げ、飲んでから稼げ

歌舞伎町ホストクラブが一つの社会として成立していて面白い点というのはいくつもある。

価値観や言語、法、時間の流れなどそれぞれが、その街が位置する日本とは別の独立した基準でまかり通っており、またそれがその社会に属する人の間ではきちんと共有されているからだ。

お金の流通もまた、この街では街の外とはまた別の独立したシステムを築き上げている。

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それはただ単に、酒屋で買えば3000円程度のシャンパンが30万でやりとりされるとか、ビールが2000円もするとかいう値段の問題だけでもなく、TAXとかいう別に国に収めるわけでも自治体に収めるわけでもないよくわからない料金が会計の40%近くも取られるという話だけでもない。

余談だが、TAXという英単語には税という一般的な意味の他に、「重い負担」「酷な要求」「無理な仕事」といった意味があるらしく、ホストクラブやキャバクラ愛好者にこの話をするととても和やかな笑いが取れる。

何よりも特徴的であるのが、多くの店の多くの客が、特に高額な会計については売り掛けシステムを採用していることである。

これは、別に京都や銀座の得意客が、現金を毎回出すのは無粋だから、とか、常連の証としてまたこれからも末長くお付き合いする気持ちとしてツケ払いにするのとは全く意味合いが違う。

要は、今はまだそれほどお金がないけれど、来月頭までには用意します、という日払いで働いている風俗嬢向けのシステムなわけである。飲んだら稼げ、飲んでから稼げ。

これといって大企業に属するわけでも保証人がいるわけでも金融機関の審査が入るわけでもない相手に売り掛けをさせるわけであるから、当然取りっぱぐれるなんていうことは日常茶飯事的に起こる。

そもそも、客である女性がホストに惚れ込んでおり、彼に嫌われるようなことはしない、困らせるようなことはしない、という楽観的な前提によって成り立っているシステムであり、その基盤は脆弱だ。

彼女たちが「飛ぶ」理由

掛けを飛ぶ、というその行為は、以前まで憧れていたホストに失望したため払いたくなくなった、騙されていたことに気付かされたために最後に復讐してやりたくなった、デートの約束をバックレる奴に金など払いたくない、なんていう恋愛関係のもつれによる女性らのレジスタンスとして行使されるのが約半数を占める。

2年間指名してきた担当ホストが実は既婚者であったために、最後に300万景気良く使って行方をくらます、とか。ホストの未収の売掛け金は、そのままホストの店への借金として残るため、一番「きく」復讐になりうるわけである。

 

残りの半分のうちさらに半分は「稼げると思ったら稼げなかった」という類のものであった。

毎日ソープに出勤すれば返せる額になるはずだったが、熱を出して休んでしまい思うように稼げなかった、先月はデリヘルに客の入りがよく稼げたが今月は全く閑古鳥で収入がなかった、そもそも若干無理のある金額を使ってしまった、などなど。

それはまぁ人間関係のこじれが根本にあるわけではないため、その時は立て替えてもらったとしても後から埋め合わせが効く。

もう半分は、そもそもあまり払う気がなく、「ものすごい臨時収入が入ったら払おうかな」くらいの軽い気持ちで高額を使ってしまう確信犯たちである。