Photo by iStock
アメリカ トランプ 経済政策
何がアメリカの繁栄をもたらしたか? 建国当初の二大路線対立
経済思想史の中のトランプ・ショック

アメリカ経済はどうなるか?

ドナルド・トランプがアメリカ大統領に就任してから3ヵ月近くが過ぎた。

この間、選挙キャンペーン時の公約を果たそうと、移民、エネルギー、ヘルスケアなどの分野で矢継ぎ早に大統領令の発布や議会への法案要請を行っている。

もっとも連邦裁判所や連邦議会の動きによって必ずしもトランプの思惑通りには進んではいない。むしろ、混乱が広がりつつあるというのが実情だろう。

そのような状況の中で、アメリカ人のみならずアメリカの外部の人びとにとっても身近な関心となるのが、アメリカ経済は今後、どうなるのだろうかという問いだ。

なにしろアメリカ経済を立て直すことを訴える“Make America Great Again”というフレーズが、トランプキャンペーンそのものであったからだ。

そんな疑問を感じ始めた時に目にしたのが、今回紹介するコーエン&デロングの『アメリカ経済政策入門』という小著だ。

実は、この本を手にしたのは全くの偶然からだった。新刊案内に平積みにされていた中で、アンディ・ウォーホルのポップアートで有名な赤いキャンベルスープ缶の装丁がやたらと目についた。

中をパラパラと見たら、アレグザンダー・ハミルトンやドワイト・アイゼンハワーといった名前が目に入り、それならばちょっと読んでみようかという気になった。つまりは装丁に惹かれたジャケ買い。もちろん200頁を切る薄さも後押しした。

よく見ると原書はHarvard Business Review Pressでの出版、すなわちビジネススクール向けの専門出版社の本であり、おそらくはビジネスパーソン向けの簡潔なものなのであろう。それでタイトルにあるように、アメリカの経済政策の歴史が概観できるならお得ではないか。

しかしそのような予想は、良くも悪くも裏切られた。

 

ハミルトンとジェファソンの対立

確かにアイゼンハワーまでを扱った第3章まではコンパクトにアメリカ経済の進展がまとめられており、これは頭の整理になる。

なかでも建国時におけるハミルトンのアメリカ経済への影響については、意外とまとまった読み物がなかったので、彼の活躍の要点が整理された記述は重宝しそうだ。

初代財務長官を務めたハミルトンは、いわゆる「建国の父祖たち(The Founding Fathers)」の一人であり、しばしば第3代大統領を務めたトマス・ジェファソンと対比して語られる。

ハミルトン(1755-1804)。アメリカ合衆国建国の父祖の一人にして、初代財務長官を務めた〔gettyimages〕

北部ニューヨークが地盤のハミルトンに対して、ジェファソンは南部ヴァージニアが拠点。ハミルトンが通商国家としてイギリスと貿易で競い合う未来を見込んで、連邦政府の強化を強く希望したのに対して、ジェファソンは農業国家として北米大陸における領土拡大に夢を託し、それゆえ独立自営農民からなる州権制、連邦制を重視した。

このあたりの建国の父祖たちの鍔迫り合いについては阿川尚之『憲法で読むアメリカ史(全)』が詳しい。

そのような二人の対立で最もわかりやすいものは、中央銀行の設立を巡るものだ。

初めて聞くと驚いてしまうのだが、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は、19世紀どころかようやく20世紀に入り、1913年に設立された。実に建国から100年余り経ってのことだ。

ではその間、中央銀行がなかったのかというとそういうわけでもなく、何度も中央銀行に相当する銀行が設立されては、時の政局によって廃止されてきた。

つまり、アメリカ社会にとって中央銀行を頂点とする金融システムの存在は、建国以来常に政治的論争の的であったわけだ。そしてその発端は、ハミルトンとジェファソンの対立にまで遡る。