Photo by GettyImages
メディア・マスコミ エンタメ 週刊現代

『仁義なき戦い』シリーズ、松方弘樹の壮絶な「死に様」を語ろう

伊吹吾郎×上野隆三×伊藤彰彦

主役ではなく、脇役。だが、メイクもセリフもこだわりぬいて、松方弘樹はファンに強烈な印象を残した。公開から40年以上経ても、その演技は色褪せていない。

松方弘樹(まつかた・ひろき)
42年、東京都生まれ。時代劇俳優・近衛十四郎の長男。役者として伸び悩んでいた時期に『仁義なき戦い』シリーズ('73年~)に出演。クセのあるヤクザ役で一躍注目を集めた

ゾンビのように蘇る

伊藤: '73年1月に封切られた『仁義なき戦い』は大ヒット、シリーズ全5作が作られました。松方さんは第1作をはじめ、第4作『頂上作戦』、第5作『完結編』にも出演。毎回凄絶に殺されます。

上野: しかも、3作とも、すべて違う役を演じている。同じ映画のシリーズで一人三役を演じた役者は記憶にありません。

伊藤: 松方さんの評伝『無冠の男』の取材で、その理由をお訊ねしたところ、ご本人も、「こっちが訊きたいよ」と苦笑いしてらっしゃいました。実際、シリーズ5部作をぶっ通しで観ると、松方さんがゾンビのように何度も蘇ります(笑)。

上野: でも、よく考えたら、当時、適役の役者が他にいなかった。あの三役はどれも重要な役回りなので、弘樹さんじゃないと無理だったと思う。

伊吹: 松方さんは、同じ役者の僕らから見ても芝居の上手い人でした。三つの役をそれぞれにちゃんと個性を出して演じるなんて、よほどの力がないとできないことです。

上野: 最初は弘樹さんが主役の候補だったんです。ところが、1本目の撮影に入る前に、シリーズ化するという話が上から降ってきて事情が変わった。当時、テレビドラマにも出演していたので、スケジュールを縛れないと思ったのでしょう。その点、菅原文太さんは映画一本だったので、主役に決まったと聞いています。

伊藤: 第1作では、集団抗争劇の中心となる山守組の若頭、坂井鉄也を演じました。この役のモデルは広島県呉市に実在した極道。松方さんは、モデルの方の写真を入手し、関係者にも話を聞き、広島弁と微妙にニュアンスの違う呉弁をマスターし役作りをします。

伊吹: 僕は松方さんとの絡みは意外と少なかったのですが、二人で殺され方について話したことをよく覚えています。「この映画では死に方がそれぞれの持ち味になる。銃弾をどんな体勢で受けて、どのように体をくねらせるのか。2発目のときはどうするのか。そういう死に方が一人一人大事だ」とアドバイスをもらいましたね。

上野: いい役者ほど絶対に自分で死に様を考えているものです。坂井はフラリと立ち寄った玩具屋で殺されます。あのシーンの死に様も彼から相談を受けました。「最期はこうやりたい」という話を聞き、殺陣師として逆算して振りをつけました。

伊藤: 若者が意味もなくどんどん尊い命を落としていくことが、この映画の大きなテーマですから、死に様が勝負どころですよね。

Photo by GettyImages

努力を人に見せない

上野: 第一作の吾郎さんは散髪屋で殺されましたよね。あのシーンも、すごく印象に残っています。

伊吹: あのシーンは、拳銃で撃たれる瞬間と血糊が出るタイミングが合わず、1回目にNGが出たんですよ。鏡や床に血糊がべっとりとこびりつき、拭き取ってきれいにするのが大変でした(笑)。

伊藤: 伊吹さんが演じた、坂井の弟分である上田は、ジタバタすることなく殺されました。一方、その死を聞いた坂井は、文太さん演じる主役の広能昌三が懐から煙草を取り出そうとしただけで、撃たれるんじゃないかと勘違いし、奇声を上げて命乞いする。そのコントラストが見事でした。

後に伊吹さんが松方さんと共演された『北陸代理戦争』のモデルとなった極道の方に取材をしたとき、「松方弘樹のトッポさと服装のセンスの悪さは、関西やくざの特徴をよう掴んどる。だけど、若頭に一番ほしいのは伊吹吾郎や。ああいう若頭がおったら組は安泰や」と言っていました(笑)。

伊吹: 松方さんは、ときにコミカルな演技をすることがあり、それが持ち味でもありましたね。

上野: 喜怒哀楽をはっきりと演じるじゃないですか。だから、観る者に訴えかけるんです。

伊吹: 鼻につくような臭い演技だと嫌な感じがするけれど、松方さんはサラッと演じながらも凄みを出せる人だった。

 

伊藤: 実年齢では9歳年上の文太さんと同じ年齢設定の役を演じなくてはいけないということで、いろいろ苦労もされたようです。当時、松方さんは31歳でした。当然、その若さでは顔にしわは刻まれていません。

そこで、松方さんは、冷たい水を入れた洗面器と熱いお湯を入れた洗面器を用意して、交互に顔を突っ込むことを繰り返しました。そうすることでしわができると聞き、愚直に実行したそうです。