photo by iStock
医療・健康・食 ライフ

大人の発達障害を持ち金のかからない彼女と僕に起きた「ある事件」

されど愛しきお妻様【5】

ルポライターの鈴木大介さんと、「大人の発達障害さん」のお妻様(元・彼女様)の笑いあり涙ありの18年間を振り返る本連載。「目を離した隙に彼女様がリストカットして死んでしまうのではないか」と、勤めていた会社を辞めフリーライターに転身した鈴木さん。状況は好転したのか否か?

バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/daisukesuzuki

取材先でもトイレでも一緒

会社を辞めて自宅を仕事場にすれば、僕の小言と彼女様のリストカットという無限ループからは脱出できるのではないか。9割の不安と1割の期待といった心理状態で踏み出した、2人の新生活。この決断によって「劇的な何か」は起きたのか? だが実は、この時期は僕の記憶そのものが少しあいまいだ。

当時のことを思い出そうとすると、僕の頭の中には何故かサザンの『TSUNAMI』のサビメロが流れ出す。嗚呼あれは、ファクスの呼び出し音。江戸っ子気質で金は持っているだけ使ってしまう主義の彼女様が、フリーランスになった僕のために買ってくれたブラザー工業製ファクスの呼び出し音だ。

♪見つめあ~うと~素直に~おしゃべりでき~ない。

 

やばい。彼女様と桑田様には申し訳ないけど、思い出すだけで具合悪くなってきた。なぜならその電話ファクス複合機のメロディを朝な夕なに流して呼び出してくれたのは、他でもない当時の取引先の編集者たちであり、用件は「原稿どうですか〜」。ならまだ良いが、多くは「そろそろヤバいぞー」とか「家に居るのは分かってんだぞ〜」だったりしたからだ。

済みません、今頑張って書いてるところです! いや、本当言うと今起きました!

本当に、記憶がすっぽり飛ぶほど働いた。出版業界でのフリーランス経験は二度目だが、一度目は大失敗してド貧乏のどん底を這いずり回ったトラウマがある(連載第4回参照)。二度とあんな思いはしたくない。

だが一方で、どれほど忙しくなっても、再びお妻様を独りぼっちでアパートに残してどこぞへ行ってしまったら、本末転倒だ。

photo by iStock

ではどうしたのかと言うと、僕と彼女様は「ひとりになった」。実際その当時の彼女様と僕には「一緒にいなかった記憶」があまりない。なにがなんでも2人で行動。仕事の取材に行く際も、打ち合わせで取引先の編集部に行くときも、とにかくひたすら一緒に行動していた。

はてはお風呂も。そしてトイレですら、中で本を読んでいると彼女様に乱入襲撃を受ける始末。ここまでくるとラブラブを通り越してキモイというか、少しは独りになりたいと思う僕であったが、これもまた苦しむ彼女様を放置してきた反動であり報いなのだろうと、あえて甘受した。