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企業・経営
なぜ東芝では「社外取締役」の経営チェックが機能しないのか?
「自社株保有ゼロ」という重大欠陥

「適正意見」なしで決算

東芝に上場廃止のリスクが高まっている。11日発表の2016年4~12月期決算で同社は監査法人から「適正意見」を得られず、「意見不表明」を突き付けられたからだ。米原子力子会社ウエスチングハウスの決算処理をめぐって対立したためとみられている。

上場廃止となれば東芝株の価値は大きく下がる。株式の流動性がなくなり、自由な売買ができなくなるためだ。株主は再上場まで保有株を塩漬けにするか、最悪の場合は保有株の紙くず化も覚悟しなければならない。

では、経営のチェック役である社外取締役も一般株主と同じようにつらい思いをしているのだろうか? 結論から言えばノーだ。東芝株を大量保有していないからだ。

 

具体的に見てみよう。2015年に東芝の不正会計が発覚した時点の社外取締役は4人。不正会計発覚前の株価500円(現在は200円台)で計算すると、東芝株の保有額は1人当たり400~800万円だった。

これを見て「結構持っている」と思ったら大間違いだ。4人は1人当たり平均で年1千万円以上の現金報酬を受け取っていたからだ。たとえ東芝株が紙くず化しても元を取っているといえる。報酬は金額的に東芝株の保有額を上回っているうえ、毎年払われるのだ。

昨年6月の株主総会で再任された社外取締役6人はどうか。1人当たり平均で1千万円近い報酬を受け取っていた一方で、大半は東芝株を保有していなかった。1万1千株(株価200円で220万円)が1人、2千株(同40万円)が1人、残り4人はゼロ株だった。

ここから浮かび上がるのは、社外取締役が株価よりも報酬を気にしかねないというコーポレートガバナンス(企業統治)構造だ。金額的に見ると、社外取締役にとって毎年もらう報酬は保有する東芝株よりもずっと重要なのである。

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報酬が少ないと経営チェックできない?

経営陣は報酬によって社外取締役を味方に付け、経営チェックを甘くしてもらおうと期待する。社外取締役の自社株保有がゼロでも黙認する。

一方、社外取締役は毎年もらう報酬を守るために経営陣にすり寄り、今後も「雇用」してもらおうと考える。会社の経営が傾いて株価が急落しても気にしない。自社株保有が少ないため(あるいはゼロであるため)懐が痛まないのだ。

制度上、社外取締役は株主利益を守るために経営をチェックする役割を担っている。にもかかわらず実態は株主よりも経営側に近いわけだ。こうなると「一般株主の利益を守る」ということよりも「経営陣の顔色をうかがう」ということを優先してしまいかねない。東芝のガバナンスが機能しなかった一因もここにあるのではないか。

そんな状況下で、社外取締役について「報酬が少ないからきちんと経営チェックできない」といった議論が出ている。社外取締役の自社株保有を棚に上げて報酬だけ増やしたら、逆に経営チェックを甘くしてガバナンスを後退させかねないのに、である。

例えば4月9日付の日本経済新聞。

「社外取締役報酬 米の4分の1」と題した記事の中で、「年間報酬は平均で669万円」としたうえで日本企業の社外取締役が十分な報酬を受け取っていないと指摘。一方で自社株式保有については否定的なトーンで言及し、「社外取締役の独立性を損なう」という意見を紹介している。

これを読むと、日本ではグローバルスタンダードからかけ離れた議論がいまだに横行していることが分かる。まるで社外取締役については株主との利害一致を否定し、経営陣との利害一致を肯定しているようだ。

世界のガバナンス論議はかねて「株式の大量保有こそ社外取締役の独立性を高める」という見解で決着している。社外取締役が自社株保有を圧倒するほど多額の現金報酬を得ていたら、経営陣と利害が一致して独立性が損なわれてしまう――このように考えられている。