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芥川賞受賞で一躍「テレビの寵児」となった羽田圭介の高揚と異変
新作の50%はノンフィクション

芥川賞受賞後、テレビ出演を重ねて名声を得、多忙を極めるが、やがて心に異変が――。高校生でデビュー、2015年に、又吉直樹と芥川賞をW受賞した作家の実体験をベースにした新作『成功者K』について、羽田圭介が語る。

この小説を書かなければテレビに負けてしまう

ーお笑い芸人・又吉直樹さんとのW受賞で話題を呼んだ2015年7月の芥川賞受賞以降に執筆された、初の新作長編。芥川賞を受賞した若き作家Kが一躍テレビ界の寵児になるという、表紙含め、まさにご自身を連想させる人物が主人公です。

芥川賞作家がテレビに出るというと、芥川賞関連のニュースか「王様のブランチ」(TBS系列の情報番組)のブックコーナーくらいしかなかったんですが、たまたま受賞作の発売前日に放送になるバラエティー「アウト×デラックス」(フジテレビ系列)から出演依頼が来たんです。

宣伝になるかと出てみたら、予想以上に反響があった。自分でも今までにない経験をしているという感触があって、「これ、小説のネタになるんじゃないか」と。それから、潜入取材をするように出演し続けました。

―自分の体験を、小説に注ぎ込むつもりで。

使えるものは全部使おうと。とにかく、「この小説を書かないと、自分はテレビに負ける!」という思いで、昨年の7~8月の2ヵ月で500枚を一気に書き上げました。物語の推進力が、いつもとは違いましたね。

僕はわりと自分の体験を書く作家だと思われがちなんですが、実は最初に「こういう小説を書きたい」というイメージがあって、そのために取材をするということが多いんです。就活をモチーフにした『「ワタクシハ」』という作品のときも、小説のために就活をしました。

 

―Kは、羽田さん同様、請われるままにテレビ出演を重ね、成功者として富と名声を獲得します。近づく女性たちとの奔放なセックスライフも描かれますが、実際、こんなモテ方をするのですか?

どうなんですかね…(笑)。最初の2~3ヵ月はミーハーな人がサイン会やロケ先にワーッと来て手紙をもらったりもしましたけど、その年が明けてからは、ぜんぜん。

不思議なんですが、イベントなどの場でも「テレビに出てましたよね」と言われることはあっても、「本を読みました」とは言われない。それまで身の回りには、作家や編集者など小説を書いたり読んだりする人がたくさんいたわけですが、日本はもう98パーセントの本を読まない人たちで構成されているんだなと。そんな当たり前のことも、外の世界に出て理解できたという気がしています。

フィクションと現実の境目をなくした

―《自分を今まで無視してきた読者や世間に、復讐しているつもりなのかもしれない》というKの独白も、印象的です。

請求書を書くといった事務作業を黙々とこなしているときのKのそうした心境は、自分そのままという感じ。小説全体でいうと、だいたい50パーセント以上はノンフィクションかもしれません。

ただ、気持ちの変遷はありました。テレビ出演を始めた当初は、放送業界や広告業界と出版界とのやり方の違いにすごく違和感を感じて「やられないようにしよう」と思いましたが、人間同士、それなりに真剣に一所懸命やっているんだということがわかってきます。

ファンの人々の様子を見ていても、つくづく他人は理解できないなと思いましたが(笑)、一方で、自分の中にもいろいろな面がある。なので、今はもう他人を恨むような気持ちはありません。

―多忙を極める中、Kを取り巻く環境、彼自身の精神や体に異変が現れ始めます。それが妄想なのか、現実なのか…。

偽悪的なことを書いているだけでは小説として工夫がないので、フィクションと現実の境目をなくすことは、意識的にやっていきました。

実際、自分の身にも、想像で小説に書いた出来事が、もっと悪い形で現実に起こったりして。自分は予言者で、これから先、どんどん悲惨な目に遭うんじゃないかと恐ろしくなりましたね(笑)。