格闘技

誰も語らなかった、新生UWF消滅前夜と「その後」の真実

証言・「新生・1988年のUWF」後篇
細田 昌志 プロフィール

「心配せんでええよ」と前田が…

──しかしですよ。柳澤健さんも『1984年のUWF』の中で指摘していますが、昇り調子の企業の経営者なわけですよ。実際身を粉にして働いている。センスもいい。その上努力もしている。そんな企業の経営者ですから、好待遇であるのは当然ではないですか?

川﨑 確かにそうですが、前田さんや高田さんより貰っていいとは思いません。芸能プロダクションに喩えて説明するとわかりやすいかな。創業者であるオーナーが立ち上げて、徐々に所属タレントが加わったようなプロダクションの場合だと、タレントより創業者が貰っていいという理屈は成り立つと思います。なぜなら「このタレントありき」で始まったわけではないから。

──なるほどね。確かにナベプロの渡辺晋さんしかり、ホリプロの堀威夫さんしかり、彼ら自身がもともとプレイヤーで、自分たちのバンドの窓口という意味で起業しています。

川﨑 ナベプロやホリプロが実際どうかは知りませんが、「起業家たる経営者は相応の報酬を受け取る」という企業論理は、彼らにおいては成立するように思います。しかし新生UWFの場合は必ずしもそうではありません。まず選手ありき。それも「前田日明ありき」で始まっています。そもそも前田さんが参加しなかったら、起業すらしていないでしょう。

──それはそうか。

川﨑 それに前田さんがいなかったら、おそらくこれだけの大成功は覚束なかったはずです。もちろんナベプロやホリプロもタレントパワーで大きくなった部分は大いにあると思います。でも起業とは直接関係していない。この差は大きいと思います。

──そういう意味では、社長の神さんと専務の鈴木さんが「前田日明以上の報酬を受け取るのはフェアではない」という理屈はわからないでもないです。

川﨑 前田さんの給料は月150万円だったと記憶しています。もしこれらのことが事実であれば、神さん、鈴木さんは象徴を下に置いたことになりますね。しかし前田日明という象徴を売ることで利潤を得ているんです。それを思えば、若い二人は走り過ぎたように思いますね。ちなみにわれわれ社員の給料は、その10分の1ってところでしたが(苦笑)。

──当時、周囲に指摘する人はいなかったんですか?

川﨑 いましたよ。でも「徐々に彼らの言うことを聞かなくなっていった」と後になって聞かされています。例えば道場を貸して下さっていた第一自動車の寺島幸男社長。寺島社長は神さんや鈴木さんにかなり好意を持って接していらっしゃいましたけど、その後、次第に距離を置かれましたからね。この頃のことは理由としてあったように思います。

 

──そういうことも積み重なって、前田さんと神社長、鈴木専務の仲がおかしくなっていったんですね。

川﨑 明らかにギクシャクしていましたね。それは僕のような下っ端の社員にも伝わりました。それでも最初はまだ「どうにかなるだろうな」という楽観的な想いがあったんです。

──どうしてですか?

川﨑 例の日本衛星放送(WOWOW)の契約があったからです。すでに基本合意して91年の春から放映開始は決まっていました。あのときの条件を知っていますか?1回の大会に4千万円の放映料が支払われて、しめて年間5億円。

──ひえー!

川﨑 今ならありえないでしょう。立ち上げのWOWOWの目玉ってマイク・タイソンとUWFなんです。日本初の民間衛星放送局はそれで視聴者を増やそうとしていたわけです。だから神さんも「あともう少しの辛抱だ。頑張ろうな」ってよく社員に発破をかけていました。社員全員その言葉を信じていたし、当然選手もそう思っていたはず。だからいくら感情的にこじれようとも絶対結束するだろうと思っていました。年間5億を棒に振るわけはない。だから割れるはずがない。

──それがああいう形で割れてしまった。川﨑さんは若い営業部員という立場だったと思いますが、何か手立てを講じなかったんですか?

川﨑 やりましたよ。関係が悪くなっていくことに僕自身耐えられなくなって、前田さんの御自宅に電話を入れたことがあるんです。90年9月の愛知大会の営業に行っているときです。「前田さん、社長と揉めているみたいですけど、疑問があるなら僕になんでも聞いて下さい。大会のチケット、お金の流れ、なんでも説明できます。やましいことはないです。本当です」と。

──これはまさに心の叫びですね。

川﨑 「僕は前田さんも好きだし、社長も専務も好きです。だから社長とも専務とも揉めないでやってほしいんですよ。お願いします」と、はっきり電話口で言いました。

──そしたら前田さんはなんと?

川﨑 「わかった。大丈夫。心配せんでええよ」って優しい口調でおっしゃったんです。こんなことを言っても信じてもらえないかもしれませんが、実は前田さんって感情をすぐ表に出す人ではないです。すぐ怒鳴ったり、キレたりという印象があるでしょうが、それはスイッチが入ってからのこと。それまでは御本人はいくつもの山を越えているんです。

──では、スイッチが入ってしまえば、決壊した洪水みたいになると(笑)。

川﨑 ……それはそうかもしれない(苦笑)。ただ、すぐ感情を爆発させる方ではないことは間違いないです。事実、神さんに対する不信感をわりと早い段階から持っていたようですが、言わなかったわけでしょう。つまり押し殺していたんですよ。