格闘技
証言・「1988年の新生UWF」(前篇)
細田 昌志 プロフィール

「軋む関節、高角のスープレックス!」

──楽しそうな雰囲気ですね。社員生活も楽しいものだったのではないですか?

川﨑 そう思うでしょ。それがそうはならない(苦笑)。翌日鈴木専務と二人で会社の宣伝カーを飛ばして名古屋まで行ったんですが、車中で専務から「昨日までは『川﨑さん』だったけど、今日から『川﨑』だからな」って言われて「あ、はい、わかりました」みたいな(笑)。

──ヒリヒリするやりとりですね。

川﨑 それで連れて行かれたのが名古屋の露橋スポーツセンター。名古屋大会が迫っていましたから。その日は会場全体の打ち合わせの日だったんです。スポーツセンターの責任者と、音響さん、照明さん、地元のイベンターさんが揃って待っている。会場に着くや否や専務が「では、後はこの川﨑がやりますので」と言って、いきなり一人にさせられたんですよ。

──いきなりですか!?

川﨑 いきなりです。新しく入った社員がいきなり会社を背負うわけです。正直ちんぷんかんぷんだけど、なんとかやり通すしかない。それが終わると宣伝カーで名古屋市内、中京地区をくまなく走る。その音声も僕が吹き込みました。

──ああ、地方大会ならではの、あの宣伝カーですね。ちなみにそのときの台詞は憶えていますか?

川﨑 それは30年近く経った今でもはっきり憶えています(笑)。「UWF. Fighting Network名古屋大会は、来たる11月10日、午後6時30分衝撃のゴング。メインイベントは前田日明対高田延彦。うなるキック、軋む関節、高角のスープレックス。本物はUWF! 本物はUWF! チケットは市内プレイガイドにて絶賛発売中!」

──素晴らしい! それを自ら吹き込んだんですね。

川﨑 朝8時から夜8時まで、愛知県内から近郊をくまなく走らせます。それが終わると寝る間もなく深夜までポスター貼りですよ。一晩100枚というノルマを課せられていました。雨だと休めるんで楽なんですけど、毎日ビジネスホテルの部屋に電話がかかってくる。「おい、なんで部屋にいるんだよ」「今晩こっちは雨です」なんてやりとり(笑)。

──さぼりチェックまでやられてたんですか!

川﨑 用件はそれだけじゃなくて「今日は何枚貼ったの?」とか「何か問題起きてない?」とかそういう業務報告もあって。それでまた翌朝8時から夜8時まで宣伝カーを走らす。それ以外にも大会当日のバイトの手配だとか、プレイガイドを回ってチケットの売り上げの確認だとかいろいろやることがあって……だから僕の前後にも営業担当の社員は何人かいたんですけど、みんなすぐ辞めてるんですよ。当然ですよね。

──名古屋というと、新日本プロレスを担当していた共同企画が有名でしたけど、何か接点はなかったですか?

川﨑 富野社長ですね。それが、なくはないんです。共同企画さんから連絡がありまして「ウチのお客がUWFのチケットを買いたいと言っている。売ってくれないか」と言って来られたんです。それでお会いしたんですけど「割引してくれないの?」って聞かれたので「ウチは定価なんです」と。業界の大先輩ともそんなやりとりをさせていただきました。

 

──富野社長は新日本と全日本の興行戦争が熱いときでも、新日本にだけ仁義を通してこられた業界の大立者ですよね。当然UWFが登場してもそうだったように思いますが、それでもチケットの融通は頼んできたってことですね。

川﨑 そうですね。あくまでも「ウチのお客が観たいって言ってるからチケットはないか」という依頼で、ビジネス云々ということではないです。ただ、それだけこのときの新生UWFの注目度が高かったってことかもしれません。

──日々きついといえばきついですが、貴重な体験ではありますね。

川﨑 本当に濃厚な毎日でしたよ。初めて迎える大会当日は細かい作業はなくて、とにかく当日券売り場に立ってるだけ。案外楽かなって思ってたんですけど、「いいか、変な奴が来ても絶対入れるなよ」って専務に釘を刺されるんです。つまり「やくざとかその筋の人たちが来ても、お前が体張って止めろ」ってことなんですよね。だから気分的には全然楽ではなかった(苦笑)。

──大変だ。じゃあ大会が終わるまでは気が抜けませんね。

川﨑 一日中体が強張っていましたね。そして翌日は一日かけて貼ったポスターをはがして回るんです。ほら、地方の大会とか、終わった興行のポスターがボロボロになって貼ったままになったりとかあったでしょう。「UWFというのは新しい団体だから」というポリシーから、ポスターは全部はがすという方針だったんですよ。はがし終えてやっと帰京です。

──久しぶりの東京ですが、川﨑さん、確かそのとき新婚でしたよね?

川﨑 新婚ですよ(笑)。だから僕が出張している間、家内は本当に寂しかったと思います。いきなり駆け落ちみたいに上京して、周りに誰も友達もいない土地ですからね。横浜に私の叔母が住んでたんですけど、そうそう行ってられないし。心配だったので、自宅の玄関から見える場所に、UWF博多大会のポスターを貼っていました。「変な奴が来たらこれを見せて撃退しろ」と(笑)。

──そんな無茶な!しっかし、過酷なのは道場だけではなくて営業部員もだったんですね。

川﨑 まったく(苦笑)。それで帰京して落ち着く間もなく「じゃあ、明日から大阪へ行け」と指令が出まして(笑)。12月22日の大阪大会ですよ。「HEART BEAT UWF」。

──高田延彦対ボブ・バックランド! 僕も鳥取から「密航」しましたよ。