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「大介が怖い。怖いけど好き」彼女様に言葉のDVをしてしまった僕
されど愛しきお妻様【4】

ルポライターの鈴木大介さんと、「大人の発達障害さん」のお妻様が共に歩んだ18年間を振り返る本連載。精神科の強い薬の副作用で仕事をクビになってしまった彼女様(現・お妻様)に、何とか家事をしてもらいたい鈴木さんですが、そうは問屋が降ろさなくて……。

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圧倒的「汚部屋力」

子ども時代から「何をやらせてもできない子」という母や祖母の叱責の中で育った彼女様。避難的に我がアパートに家出してくるや盛大なリストカットが始まったが、どうやらそれは「再発」であって、実は中高時代にもリストカットはあったらしい。聞いてないよ!

でも、でももう大丈夫。僕の家に来たからには、来たからには、来たからには……。彼女様が嵐のように舞い込んできた我がアパートは、「戦場」になってしまった。

初めは父親の車で家出してきた際に持ち込んだ小さな折り畳みテーブル周辺が彼女様の私物置き場だったが、買い足しているのか俺の知らぬ間に実家から持ち帰っているのか、みるみる増える私物は、整理されることなく積み上げられ、見事万有引力に従って雪崩を起こす。

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テレビの前に積み重ねられるレトロなファミコンゲームの山と、流れ出る8ビットのチープなゲームミュージック。よく見ればどこの怪しい外国人から買ったのか、数十のゲームが1つのカセットに書き込まれた違法ROMと、その中に収録されているタイトルのオリジナルROMが混在している。

「この怪しい違法ROMがあれば、オリジナルって要らないんじゃないの?」

そう聞けば、「要るの! 紙の箱が大事なの!」とむくれ顔。
 
はあそうですか。そんな大事ならしまっておけばいいものを。床に出しっぱなしで、たまにその上に座ったりもしてるパッケージの箱は、昭和時代からの歴史を感じさせる見事なボロボロぶりじゃねえか。ていうか君はなんでそんなに平気な顔で「物の上に座る」の?

かと思いきや、ステレオ周りにはビジュアル系、ボサノヴァ、渋谷系、オールディーズと、時代もジャンルも一切の節操を感じないCDが積み重ねられ、隙間という隙間にペットボトルのキャップフィギュアが並べられていく。

服は脱ぎっぱなし。それを僕が黙って洗濯機に突っ込んでおくと、あれがなくなったこれがなくなったと部屋中を探し回って余計に散らかしている。貴重な収納スペースである天袋には、買うだけ買って組み立てられることのないプラモデルの箱が押し込められ、トイレに行けば床に日々増えてゆくトイレットペーパーの芯。

その芯もコレクションか何かですか? クラフトアートでも作るんですか? 違いますか? じゃあ捨てろ! ゴミはゴミ箱に!

 

おかしい。

彼女様が乱入してくるまでの我がアパートは、2DKの間取りのうち、食事をとるのはダイニングのみ。1部屋は書架と衣類の入る押し入れと布団のみの寝室。リビングは天井付近のクリップライトが照らす淡い照明だけの「音楽と読書の部屋」と、洒落こんでいた筈だった。

いや、ここでちょっと彼女様の名誉のためにカミングアウトすると、このお洒落部屋は1つの「反動」だった。この部屋に越してくる前の18歳から7年近く住んだ6畳1間の日当たりの悪いアパートは、友人から「産廃小屋」と呼ばれていた気がする。いやいや、認めよう。気がするじゃなくて、そう呼ばれていた。

特段、友人の口が悪かったわけではない。バイクを部屋の中に入れて整備するから「土足」、友達が来た時に僕が不在だとかわいそうなので「無施錠」、ユニットバスは「簡易塗装ブース」、壁際に堆く積んだ大量の雑誌の奇跡的バランスは芸術的ですらあった。

言わば典型的な男子のゴミ部屋というのか、最も酷いときには1000ccのバイク2台(乾燥重量合計490㎏)を室内に入れて床に穴が開き、「そこが一番平ら」という理由で床に寝かせたバイクの上に座布団を敷いて寝ていたこともある。

認めたくないが、あれはひとつのトラウマだった。そして、新たなる部屋は、あの貧乏で寒くて汚くて、あの解体屋の倉庫と同じ酸化したガソリン臭がただよっていた産廃小屋から抜け出して、ようやく定職に就き、実現した憧れの快適ハウスだったのだ。

嗚呼夢に見た、布団やバイクのタンクの上とかじゃない、ダイニングテーブルでのお食事という文化的生活! もう二度とあの貧乏カオスには戻るまい!

そんな決意のもとで作り上げられ維持されてきた我がお洒落部屋が、彼女様の圧倒的「汚部屋力」によって蹂躙され、あのジャンク部屋以上のカオスに戻っていく。

この当時、僕が彼女様に書いた手紙を発掘すると、いくつかのお願い事リストが書いてあった。

・出かけたときに限らず、毎日お風呂は沸かそう。
・フリカケだけでご飯食べないで。
・ダイニングやリビングの机の上を物でいっぱいにしないで。ご飯食べれない。
・洗い物の食器には水を張ろう。
・食材が全部なくなる前に買い出しに行こう。せめて納豆と卵は常備したいです。
・食材を買いに行くときは買い物メモを書いて行こう。
・缶ゴミ溜めんな!

ラスト半ば切れ気味。