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再生医療

人類から「ハゲ」に悩む人がいなくなる日 〜再生医療の最前線ルポ

実用化はもうまもなく!

世界初のiPS細胞治療に成功

2017年3月28日、iPS細胞による世界初の眼の手術に成功したという快挙が報じられた。

加齢黄斑変性という病気がある。

デジカメの受光素子=CCDに相当するのが網膜だが、その中央部にちょっと凹んだ部分があり、ここを黄斑部と呼ぶ。

網膜は「網膜色素上皮」(RPE細胞)という地盤の上に張りついているのだが、その地盤にカビのように細い血管が増えて膨れあがり、網膜を押し上げて壊し続け、やがて失明してしまうのが加齢黄斑変性という病気だ。

その修復のために、異常の起こった土台部分を除去し、新鮮な土台細胞で置き換えれば症状の悪化が防げる。

そこで、ここに、その場の細胞に変身してくれるiPS細胞のシートを入れてそっと置いてやれば、やがてiPS細胞は新鮮な土台細胞として定着してくれる。これがiPS細胞による加齢黄斑変性の治療だ。

この手術治療は2014年に成功していたが、患者さんの細胞を元にしてiPS細胞を作り出すのはえらく大変で、移植手術ができるまでiPS細胞を増殖させるには11ヵ月もかかっていたのだ。しかも、コストは約1億円だった。

そこで、他人の細胞から作った「作り置きのiPS細胞」を使えば、期間は1ヵ月、コストも10分の1で済む。

3月28日、その他人の細胞を使った世界初のiPS細胞の移植手術に世界で初めて成功したのだ。免疫反応を抑える措置が必要だが、これは迅速で低コストのiPS細胞による再生医療に新しい道を開いたのだ。

この快挙を行ったのは、神戸市にある理化学研究所・多細胞システム形成研究センター(CDB)のプロジェクトリーダーで医師の高橋政代さんと神戸市立医療センター中央市民病院、それに大阪大学と京都大学のチームだ。

CDBと神戸市立医療センター中央市民病院は渡り廊下で結ばれており、基礎科学の研究所と病院が一体となった神戸ならではの成果だった。

ニュースではまったく伝えられていないが、ポートアイランドにある両施設は、阪神・淡路大震災の復興プロジェクトとして発足した神戸医療産業都市の中核をなしている。ここには、最先端の医療・バイオ関連施設、企業が実に334も集まっていて、朝の通勤客は8000人にのぼる。日本のライフサイエンスの中心地なのだ。

今回のiPS細胞による加齢黄斑変性の治療は、神戸市立医療センター中央市民病院が治療希望者を広く募り、臨床治験として行ったので、患者さんの経済的負担はほとんどなかった。今後、さらなる治療費のコスト低減は大きな課題だ。

人類待望!ハゲと歯の再生治療

今回の「世界初」の快挙は加齢黄斑変性という限られた疾患に対する再生治療だったが、きわめて多くの人が待っている「夢の再生治療」がある。

このたび上梓した拙著『理化学研究所 100年目の巨大研究機関』を読んだ多くの方々から思いほか大きな反響があったのが、「第8章 入れ歯とハゲのイノベーション」だった。

加齢黄斑変性の研究拠点と同じ理化学研究所CDBで、ハゲと歯の再生治療の実現が着々と進んでいたのだ。

 

「歯には、乳歯と永久歯がありますよね。歯は胎児のときに種が2つできるんです。先に生えた乳歯が落ちたあと、2つ目の種、永久歯が大きくなります。

しかし種は2つしかないため、2つを使ったらお終いです。永久歯を失ったら、入れ歯をするしかないが、僕らは歯を失った高齢者でも、歯が新たに生えてくる方法を手にしました。

男性型の脱毛症も歯と同じで、失った髪の毛がかつてのように生えてくることはないが、それも可能になりました。毛髪再生治療は2020年の実用化を目指しています」

入れ歯に代わる歯や男性型脱毛症で失った髪の再生医療に取り組んでいるのは、CDB・器官誘導研究チームを率いる辻孝さんだ。