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米・ティラーソン国務長官の外交力は小学生レベルかもしれない

日韓中歴訪で露呈した信じ難い能力不足
近藤 大介 プロフィール

以上である。ちなみにこの時の王毅外相の発言要旨は、以下の通りだ。

・中国は、朝鮮半島の非核化、対話と交渉による問題解決、朝鮮半島及び地域の平和と安定ということで、朝鮮半島にコミットしてきた。

・朝鮮半島の核問題は基本的に、アメリカと北朝鮮の問題だ。

・中国はこれまでも、できる限りの尽力をしてきた。3者協議、6者協議なども行った。それらは主に、米朝協議をサポートするためのものだった。国連安保理で制裁決議も行ってきた。2005年9月には、6者協議で共同声明も出した。

・最も重要なのは、どんな時でも平和的に外交的手段によって解決していかねばならないということだ。

・いまや再び新たな岐路に立っていて、このまま状況がエスカレートしていけば、最後は軍事衝突に至るだろう。だから交渉をリスタートさせるべきだ。

・まずは関係各国が頭を冷やすことだ。われわれも新たな交渉に、アメリカ側に立って協力していく。

・朝鮮半島の核問題をめぐる今日のティラーソン国務長官との議論で、双方は完全には一致しなかったが、基本的なコンセンサスや方向性は共有している。ティラーソン国務長官が述べたように、中米双方が目指すゴールは、朝鮮半島の非核化だ。中米はこれからも、しっかりと協力し合っていく。

〔PHOTO〕gettyimages

存在の耐えられない軽さ

米中両外相の共同記者会見を見ていると、明らかに王毅外相の方がリード役だった。王毅外相は4年も外相をやっていること、中国のホームグラウンドであることなどもあるが、王毅外相にとっては、一世一代の晴れ舞台だったことも大きい。

王毅外相の任期はあと一年で、今年後半に開かれる第19回中国共産党大会で、次の処遇が決まる。王毅外相としては外交担当国務委員(副首相級)に昇進して、中国外交の最高責任者になりたい。

ところが、いまそのポストにいる楊潔篪国務委員(前外相)は、「王毅外相は日本畑の外交官なので、最重要の対米外交ができない」と理由をつけて、もう一期5年務めたい。つまり、中国国内で楊潔篪vs.王毅の激しい「内交戦」が再燃しているのである。すべては習近平主席の胸先三寸だ。

 

そのことを差し置いても、日本、韓国、中国と3ヵ国歴訪したアメリカの新国務長官の「存在の耐えられない軽さ」には驚いた。

まず第一に、マクパイプ記者との長いインタビューの発言を確認すると、外交官や政治家としての経験がないとはいえ、ある意味、トランプ大統領以上に、小学生のような言い回しばかりが目につく。世界最強国の外務大臣にしては、信じられないほどの役不足、能力不足なのである。おそらく本人もそのことをよく自覚していて、自信がないから、大のマスコミ嫌いなのだろう。

第二に、ティラーソン国務長官は、キッシンジャー元国務長官のような戦略型でもなければ、ヒラリー・クリントン国務長官のような理念型でもない。あえて言うなら、国務省という組織を、予算削減に合わせてダウンサイジングしていく総務型、庶務型の国務長官に思える。そのため、アジア各地で凄んでは見せたが、北朝鮮に先制攻撃するとかいう大それた外交を展開できるような器ではない。

第三に、3月8日に、アジア太平洋担当国務次官補だったダニエル・ラッセル氏が、突然、国務省を去っていったことだ。

ラッセル次官補は、アメリカの対北朝鮮外交最大のキーパーソンで、トランプ候補の大統領選勝利の後も、「北朝鮮外交があるから」と言って残った数少ない国務省幹部だった。それがティラーソン国務長官のアジア歴訪の1週間前になって突然、辞任したのは、ティラーソン国務長官とアジア外交を巡る齟齬があったとしか思えない。そして、キーパーソンを失ったアメリカのアジア外交は、漂流とまではいかないかもしれないが、一時的後退は免れないのである。

第四に、北京でも、マクパイプ記者に対しても、ティラーソン国務長官は、トランプ大統領と習近平主席の早期の米中首脳会談の重要性を力説していながら、その日程を発表できなかった。すでに4月6日、7日に習近平主席が訪米と書き立てたメディアもあるが、3月27日時点で発表がないのは不自然だ。中国は首脳の外交日程を、通常は2週間前に発表するからだ。特に、中国がティラーソン国務長官を尊重しているなら、その訪中時に発表してもよかったはずだ。

思うに、THAAD配備問題を巡って、米中で調整がつかなかったのではないか。加えて中国としては、このような「素人国務長官」を任命するようなトランプ政権との本格交渉は、急ぐ必要がないと判断したことも考えられる。

ともあれ半年か一年後には、ティラーソン氏は「前国務長官」として、自宅で悠々と孫と遊んでいるような気がしてならない。

<付記>
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【今週の推薦図書】

暗黒の巨人軍論
著者=野村克也
(角川新書、税込み864円)

プロ野球とはあまり縁のない私だが、野村克也氏の本だけはたくさん読んでいる。野村氏が巨人のことを論じる時、「巨人」を「日本」に置き換えると、そのまま日本論の教科書のように思えてくるのだ。すなわち、「暗黒の日本論」である。
実際、野球と国際関係は、類似点に溢れている。巨人「軍」と呼ぶように、野球は疑似戦争だからだ。日本の将来を考える上でも、実に示唆に富んだ一冊だった。

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