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美貌の元弁護士が「あり得ない」依頼に知略をめぐらす鮮烈ミステリー
目指すはルパン三世?

40歳でデビューした注目の作家・柚月裕子さん。このたび刊行した『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』ではキャラクターの魅力を全面に押し出し、シリーズ化の期待も高い。

いわくつきの美人元弁護士

――容姿端麗な元弁護士上水流涼子が、IQ140で東大出の貴山伸彦を助手に「あり得ない」依頼を解明していく連作短編。魅力的な探偵コンビの誕生です。

孤狼の血』にしても『慈雨』にしても、これまでの私の小説は、どちらかというと人物よりも人間ドラマに重きを置いて書いてきました。ですが今回は、キャラクターの魅力を最前面に打ち出しています。その意味でこの作品は、私にとって新しいチャレンジでした。

主人公の涼子は美貌の弁護士、貴山はIQ140。涼子にしても貴山にしても、普通の人より秀でた才があり、誰もが憧れるような人。

涼子は「あ、あの人」と衆人の中でも際立つ美人で、どちらかというと目立ちすぎるから、ミステリーのキャラクターとしては不利ですね(笑)。そこをストーリーではうまく使い、貴山の頭脳とお互いにフォローし合っていく筋立てにしています。

この連作は文芸誌「メフィスト」の掲載で、足かけ4年で5編を書いたことになります。メフィストは本格ミステリーの読者の方が多いので、これまでよりトリックを重視したストーリーに仕上げることも心がけました。

身近にはなかなかいないキャラクターが痛快に活躍することで、読後にスカッとするような爽快感を感じていただけたらいいな、と思っています。

 

――派手で明晰なキャラクターの涼子ですが、「元」弁護士で、いわくつきの過去を抱えている設定となっています。

涼子は、「上水流エージェンシー」という探偵事務所を運営しています。かつて傷害の罪で起訴されて刑が確定、法曹資格を剥奪されているんです。父親も弁護士で、出だしは安定した仕事ぶりだったのですが、そうはいかなくなってしまいました。

つまり彼女は、表通りだけを歩いてきた人間ではないのですね。

そんな涼子の元には、法では解決できない「あり得ない」依頼が舞い込んできます。

そもそも法律に頼ることができないので、手札がない涼子はきわどいやり方で大胆に行動します。表面上はクールで動じないように見えるけれど、場面によっては大いに悩む人間味も涼子の魅力です。

「本当にありそう」なトリック

――あやしい経営コンサルタントに入れ込む二代目社長、賭け将棋で対決するヤクザの総長、野球賭博で一儲けをたくらむ男……。彼らからの依頼はどれも奇想天外で、最近のニュースとも絡むタイムリーな話題も盛り込まれています。

賭け将棋の話、「戦術的にあり得ない」は、将棋ソフトがモチーフとして出てきます。私自身はそれほど将棋に詳しくはなくて、涼子のセリフにあるように駒の動かし方がわかるくらいなんですね。でも誰もが知っているゲームで話を書きたくて、調べました。

将棋界では、プロ棋士が、人工知能が組み込まれた将棋ソフトに負けたりしていて、この「人間対コンピューター」の構図をトリックに使いたいと書いたのがこの一編です。

書いたあとで、三浦弘行九段が将棋ソフトの不正使用疑惑をかけられるという事件が現実にあって、本当に驚きました。