2007年にはリングに上がったことも…〔PHOTO〕gettyimages
アメリカ
トランプ節は「プロレス」から生まれた!シンプルかつ快感の世界
だからこんなに愛されている

トランプが愛される理由

ドナルド・J・トランプ大統領は、なぜこれほどまでに「愛されて」いるのだろう?

いや、万人から愛されているわけではない。今日、彼の当選によって「二分された」とされるアメリカ国民の、その「一方の側」からは、彼は熱烈に愛されている。それが彼の強み、原動力となっている。

本稿は、トランプが「愛されキャラクター」と化したその構造、メカニズムそのものの分析を試みるものだ。僕が「トランプ節」と呼ぶあのパフォーマンスのなかに、「愛されポイント」の基本構造マトリックスがある。そこを分解してみたい。

昨年の11月、当サイトに寄せた前回の原稿で、僕は、トランプ支持者のコア層についての考察をおこなった(「日本人がまったく知らないアメリカの『負け犬白人』たち」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50253)。

イギリスの政党「UKIP」の党首、ナイジェル・ファラージの言葉に倣い、「負け犬たち」の表象を、映像作品や音楽など、アメリカ大衆文化から読み解いた。

「ヒルビリー」「ホワイト・トラッシュ」などと、おもに知識層や支配層(The Establishment)からは蔑まれるような表象と心理的につながり、それを肯定するような内面性が、トランプ支持者のコア層にはあると考えられたからだ。

今回はさらに一歩踏み込んで、トランプがそんな「負け犬たち」の心をつかみ、愛されて、そして「信頼を得た」その具体的な方法について見ていきたい。「トランプ節」のどこにそれほどの希求力があるのか、腑分けした上で解析してみよう。

キーとなるのは「プロレス」と「マンガ(アメリカン・コミックス)」だ。

そんなもので天下(アメリカの国家元首の座)を獲れるのか!と、あなたは怒るかもしれない。

しかし、それこそがいま、アメリカで起こっていることなのだ。

 

あまりにも幼稚な語彙…

まずは、トランプのスピーチ内容だ。言うまでもなく、彼は一貫して「ひどい」。大統領候補としても、現職の大統領としても、話にならない。

とくにオバマ前大統領が演説の達人だったから、その落差には目眩を禁じ得ない。オバマの演説は、詩であり哲学であり、高邁な理想と誠実さ、人格の高潔さを、言葉の上でだけでも感じさせてくれるものだった。これこそが、「一般的には」アメリカ社会で高い地位にいる人物に求められるもの、だった。

対してトランプは……彼の言葉は、演説でも対談でもツイートでも、その語彙が「小学4年生程度」とアメリカではよく評されているのだが、それは買いかぶり過ぎだ。もっと低いときだって多い。言葉の選びかた、文章の編みかたが、平易と言うよりも、明らかに幼稚だ。ちょっとびっくりしてしまうほどに。

トランプの語彙の水準と特徴を示す一例を、彼が得意とする(?)ツイートから見てみよう。イスラム圏7ヵ国を名指しして入国禁止を求めた大統領令に対し、世界中で轟々と巻き起こった批判に応えて、アメリカ時間の2月1日、彼はこうツイートした。

「Everybody is arguing whether or not it is a BAN. Call it what you want, it is about keeping bad people (with bad intentions) out of country!」(@realDnaldTrump より。以下同)

なんなんだよ「Bad People」って! 高めに見積もっても、これは小学1年生か2年生なみの語彙だろう。日本語にすると、平仮名で「わるもの」とか言っているような感じか。前記の一文を僕が訳すると、こうなる。

「みんな、これが〈禁止令(BAN)〉だとかそうじゃないとか、ああだこうだ議論しているが、呼びたいように呼べばいい。これは〈(わるい意志を持った)わるものたち〉を国から閉め出すためのものなのだ!」

……いい大人が、いや「先進国の国家元首が公式に」こんな言葉を口にすることは、普通、絶対にない! なんで「不審な人物(Dubious or Suspicious People)」ぐらい言えないのか? が、「あえて言わない」ところにこそ、トランプ節の真骨頂がある。

彼は、「わざと」幼稚な語彙や構文をツイートしているのだ。

日本ではよく誤解されているようだが、トランプ大統領の学歴は決して低くない。アイヴィー・リーグの一画を担う名門・ペンシルヴェニア大学で学士号までは獲っている。だからもっと難しい言葉遣いも、本来はやれて当たり前だ(というか、後述するが、かつてはこんな語彙の人ではなかった)。

であるから、今日の「トランプ節」は、意図的にやっているものなのだ。