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中村俊輔のフリーキック進化に見る「一流の判断」

究極のプレッシャーについて

名刺代わりのFK弾。

今季、ジュビロ磐田に移籍した中村俊輔が3月11日の大宮アルディージャ戦で移籍後初ゴールを挙げた。自身の持つ直接FKのJ1最多得点記録を「23」に伸ばしたその一撃には“一流の判断”が詰まっていた。

前半5分、相手のファウルで得た直接FKはゴール正面やや左で距離は17mほどと近い。そこで中村は右利きの太田吉彰にボールをまたがせ、大宮GK加藤順大の反応を探ろうとした。中村から見てゴール左側を警戒していると読むと、ゴール右に突き刺したのだ。

「ヨシ(太田)にまたいでもらったときに、GKの反応がすごく良かった。(試合が)始まったばかりで、いい意味で力が入っていたと思う。最初はこっち(左側)に蹴ろうとしたけど、逆(のファーサイド)にした」

近距離のFKはキッカーにとって難しいが、GKにとっても難しい。距離が近くなる分、素早く反応しなければならなくなるからだ。試合が始まったばかりであり、中村としては加藤がより敏感に反応すると思ったのだろう。

次の判断は、どんなボールを蹴るか。

中村は速いスライダー系のスピードボールで、壁の間に入った味方の頭上スレスレを狙っている。

「低すぎると壁に立っている人に当たってしまう。でも高すぎるとGKに(ボールが)見えてしまう」

低すぎず、高すぎず――。

そのボールならGKは反応しづらい。それもスピードが速ければなおさらである。

「コースは甘かった」と、右隅を狙った中村は満足していない。だが、駆け引きと判断でGKを翻ろうした時点で勝負は決まっていたのかもしれない。加藤は中村から見て左側にステップを踏み、FKに対応できなかった。

 

序盤に直接ゴールを決めた意味

注目すべきは前半5分に決めたという点である。

彼はプレーしながら相手GKや守備の情報を集め、CKや直接FKを重ねることでキックの質を高め、そのうえで決めるパターンが多いというイメージを筆者は持っている。実際、Jリーグの試合で今回よりも早い時間帯で決めたのは過去に一度しかないそうだ。

彼は以前、こう語ったことがある。

「自分の場合、トップ下でプレーするほうが(セットプレーで)優位に立ちやすいと気づかされた。

ボールにも多く絡めるし、ゲームに集中して体も頭もよく動くからフリーキックの調子も上がっていく。相手の情報収集ばかり考えてもうまくいかないときはダメだし、集中しているときは何も考えなくても感覚だけで入ることだってある。

だからきょうは“情報収集パターン”なのか“感覚パターン”なのか見極めることも大切になってくる。ただ、もちろん1本目から決めるつもりではいるけど」

その意味で大宮戦は、試合が始まったばかりで自身のキックの調子も分からなければ、相手の情報も集められていない。“情報収集パターン”か“感覚パターン”なのか、つかめない序盤にいきなりチャンスが訪れたわけである。実に難しいシチュエーションだったと言える。

中村は味方を使って「GKの反応」という情報を集め、一瞬で方程式を導き出した。キックの調子が分からない以上は、コースが甘くなることも想定したはずである。枠をしっかりとらえることを優先し、GKとの駆け引きと判断に神経を注いだように思えた。