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野球 読書人の雑誌「本」

プロ野球「開幕投手」エースをめぐる物語〜その座を奪い、奪われて…

そのめぐる攻防は、かくも熾烈

田中将大が叩きつけた挑戦状

開幕戦における最大の関心事はオープニング・ピッチャーである。

阪急の元エース山田久志は、1975年から86年まで12年連続で開幕投手を務めた。

「現役でいる以上、開幕投手だけは誰にも渡さない」

常々、山田はそう語っていた。そのセリフはエースの誇りに染め抜かれていた。

「開幕戦の第一球は常にストレートと決めていた。キャッチャーミットが“パチン”と鳴り、アンパイアが右手を上げる。ここから僕の1年が始まる。だから初球だけは絶対にバッターに振ってもらいたくなかったね」

87年に山田から開幕投手の座を奪ったのが後輩の佐藤義則(現福岡ソフトバンク投手コーチ)である。前年にはチーム最多タイの14勝(6敗)をあげていた。

しかし、佐藤は上田利治監督(当時)の指名に、すぐ首をタテに振る気にはなれなかった。次に起こることが容易に想像できたからである。

「案の定ですよ。しばらくの間、山田さんは僕に口をきいてくれませんでした」

プロ野球のピッチャーにとって、開幕投手の座をめぐる攻防は、かくも熾烈であると同時に厄介さをも伴うものなのである。

 

近年では、現在ヤンキースで活躍する田中将大が開幕投手の座にこだわった。入団5年目のことだ。沖縄・久米島でのスプリング・トレーニングで、こう宣言したのである。

「5年目、22歳、田中将大です! 今シーズンはリーグ優勝、日本一はもちろん、4年連続開幕投手の岩隈さんから開幕投手を奪い、沢村賞を目指したいと思います」

挑戦状を叩き付けられた岩隈久志(現マリナーズ)も黙っていない。

「驚きましたね。意気込みが十分に伝わってきた。ただ負けるつもりなんてありませんよ」

直後、私は田中に訊いた。