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ブルーバックス
70人以上の研究者に取材して分かった「理研の正体」
日本の「知力」は、かくも頼もしい

113番元素だけじゃない。スパコンからバイオ、脳科学、再生医療、新材料まで、幅広い研究で基礎科学を支える日本最大の研究所「理研」。1917年(大正6年)に設立され、100年目を迎える今では450の研究室、3000人の研究者を擁し、全国に研究施設を持つ。

ノンフィクション作家・山根一眞がつぶさに研究現場を訪ね歩き、今いったいどんな研究が行われ、研究者たちは何を目指しているのか、世界の最先端で競う研究者集団の全貌を明らかにします。

日本の「科学時代」の幕開け

今から20年前の1997年秋、兵庫県の播磨科学公園都市に、理化学研究所と日本原子力研究所(当時)がおよそ1100億円を投じた「スプリングエイト(SPring-8)」が完成した。

この「世界最高性能の放射光を生み出せる大型放射光施設」についてぜひ知りたかった。そこで、理化学研究所理事(当時)としてその開発・建設を指揮してきた上坪宏道さんに会った。

「スプリングエイトは、原子や分子の世界を観察することができる装置です。施設の中心は、電子が光に近い速度に加速して走り続けている円周1400メートルの蓄積リングです。

完成直後にこのリングの円周の長さを測ったところ、1日に40ミクロン(1ミリの25分の1)ずつ伸びたり縮んだりしていました。その伸縮の原因は、お月さまの位置によってその引力で地盤が伸び縮みしているためでした。それがわかるくらい、精密に作った装置です」

当時、私は日本のものつくり企業の技術力の源泉を探る週刊誌連載「メタルカラーの時代」を続けていた(1991~2007年の約17年間、784回掲載)が、「スプリングエイト」のような超精密で巨大な科学研究のための装置が続々と登場し始めていた。

日本のエンジニアたちは企業の収益を増大させる優れた製品を産み出していたが、「メタルカラーの時代」のインタビューでいつも気になっていたことがあった。画期的製品の多くが、欧米で発明された「科学的成果」を応用していることだった。

そのため、日本は欧米をしのぐ基礎科学を拡充していかねばならないという思いが強くなっていた。世界最大、世界最強の放射光施設「スプリングエイト」は、そういう望ましい日本の「科学時代」の幕開けとなる象徴だと思えて、興奮がさめやらなかった。

もちろん、それを作りあげたのは、日本の高度な技術ではあるが。

基礎科学の研究は目先の利益だけを目的とはしないが、将来、新しいパワフルな産業を興す可能性があることは、歴史が物語っている。

その科学分野で大胆な計画を立案し、大きな資金を投じ、人材を着実に育てていくためには、そのための器である研究機関の力も大きくしていかなくてはいけない。「スプリングエイト」を創り出した理化学研究所は、そういう日本の明日を担う日本最大の研究機関なのである。

国もやっと、基礎科学の拡充に本腰を入れ、理化学研究所と物質・材料研究機構、産業技術総合研究所の3機関を「特定国立研究開発法人」に指定。2016年10月、3機関は、日本の「イノベーションシステムを強力に牽引する中核機関」として新発足した。

とはいえ、そのひとつ、理化学研究所は2017年3月に創立百周年という大きな節目を迎えたものの、どのような研究者がどんな研究をしてきたのか、しているのかの一般の理解は十分ではない面がある。

しかし、そこには日本の明日があるはずだ。そういう思いを抱いたブルーバックス編集部から、「100年目の理化学研究所の研究の全体を俯瞰して書いてほしい」という依頼を受けた。それは大事なことだと賛同し、取り組むことにしたのである。