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中国・李克強首相が「最後の会見」で語った20のこと
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近藤 大介 プロフィール

⑫大量失業問題への対処

ロイター通信記者:「再び就業問題を聞きたい。中国政府は失業者に職をあてがうとしているが、たとえば私が鉱山か鉄工所の労働者だったとして、失業した時に、その地方でどんな職に就けるのか」

李克強首相:「昨年から供給側構造性改革を始めたが、たしかにわれわれがいま一番関心を寄せているのが、鉄鋼業や石炭業などの生産過剰業界で失業した人々を、どうやって転職指せるかという問題だ。

中央政府は1000億元の財源を取って、この問題に対処していく。昨年は72万人の配置換えを行った。もちろん全員が望むところへというのは困難だが、彼らの生活は全般的に落ち着いている。

今年は石炭火力発電の業界にも広げていき、100万人近い配置換えを実現させる。その方法とは、やはり新たな雇用を創出することだ。伝統産業から活力ある新興産業への配置換えなどだ。

もしあなたが石炭の鉱山で働く労働者で、炭鉱が閉鎖されたなら、新たなエネルギー産業に移るか、伝統的なエネルギー産業でも新しい部門へ行くだろう。中国の多くの企業は、受け入れに好意的であり、生活補助もしてくれるはずだ。

総じて言えば、供給側構造性改革を推進していくことが、ポイントとなるだろう」

【短評】
供給側構造性改革は、李克強首相率いる国務院(中央官庁)ではなく、習近平総書記率いる中国共産党中央が出してきた政策である。

「三去一降一補」――生産過剰の除去、在庫の除去、金融リスクの除去、生産コストの下降、貧困層への補填を5つの柱とし、昨年から鳴り物入りで始めた。この改革が成功するかは、少なくともあと一年くらい見ないと何とも言えない。

だが李首相の言い方を聞いていると、あまりに理想主義的、楽観主義的に考えているか、どうせ習近平サイドの政策だろうと冷ややかに見ているかのどちらかだと思えてくる。

〔PHOTO〕gettyimages

マンション「借地権70年」問題

『澎湃新聞』(旧『東方早報』)記者:「今年の『両会』が始まる前に、中国政府ネット連合の27のインターネット・メディアが共同で、『総理にモノ申す』という建議を募集した。その中で、『澎湃新聞』と『今日頭条』は、民生と密接に関係する分野の投票を受け持った。その結果、2131万人もの人が、『マンションの借地権70年が過ぎたらどうなるのか?』という疑問に投票した。中国政府はこの問題をどう解決するのか」

李克強首相:「一つ聞くが、その問題は投票で第何位になったのだ?」

記者:「第一位だった」

李克強:「中国には、『有恒産者有恒心』(衣食足りて礼節を知るの意)という古い諺があるが、インターネット愛好者たちが70年の借地権の問題に関心を抱くのは理解できる。

国務院では、担当部署に対応を示すよう指示した。すなわち、70年の後も申請なしで、そのまま前提条件なしに使用できるようにということだ。それなら法律を作らないのかと指摘されるだろう。国務院はすでに法整備の準備も始めている」

 

【短評】
中国でマンションブームが起こったのは、1990年代後半の朱鎔基改革の後からである。その時、「都市の土地は国家に属する」とする憲法第10条に基づき、「70年の借地権」のみの売買を許可した。だから中国で「マンションを買った」と言えば、それは「70年の借地権を買った」ということなのである。

なぜ70年なのかという議論は、当初からあった。私は中国人から、3つの理由を聞いた。一つ目は、70年経つと、買った当人はだいたい死んでしまうからというもの。二つ目は、70年経つと、買ったマンションはだいたい使い物にならなくなるからというもの。そして三つ目は、70年後には、いまの中国が存続しているか分からないからというものだ。

どれも納得してしまったが、いずれにしても、中国は社会主義国なので、個人に土地の財産権を持たせないというところがポイントである。

アジア太平洋地域の外交政策

タイ経済ニュース記者:「オバマ大統領は在任中、アジア太平洋リバランス戦略を打ち出し、トランプ政権はいままさにアジアの外交政策を制定しようとしているところだ。タイや東南アジア諸国は、地域が平和で安定し、中国とアメリカの衝突が起きないことを願っている。部隊を駐屯させることは、もっと望んでいない。中国はこの地域をどうしたいのか? 中国とアメリカはこの地域で、どうやって平和的に共存していくのか?」

李克強首相:「アジア太平洋地域は、この地域の国々の共通の庭園であり、冷戦時代のようなことは望まない。つまり平和と安定を望んでいるということだ。中国はアジア太平洋地域において、常にASEAN(東南アジア諸国連合)を優先的に考えてきた。ASEAN共同体の設立を支持し、地域の提携において主動的な役割を果たしてきた。

中国とASEANは『南シナ海行動準則』の交渉を進めているところで、すでに進展もしている。南シナ海の争議は、当事者同士の直接対話によって解決を図るべきだ。

中国とアメリカは、アジア太平洋地域で長年、提携してきた。多くのアメリカの多国籍企業がアジアの本部を中国に置いている。中米の提携が不断に拡大し、ASEANがその中からチャンスを得ること、そして中米関係がASEANに迷惑をかけないことを願っている」

【短評】
ASEAN10ヵ国中、多くの国々が、軍事的にはアメリカを頼り、経済的には中国を最大の貿易相手国としている。そのことは日本や韓国、台湾も同様である。そこがアジア諸国の最大の矛盾点で、米中2大国の関係が悪化したとたんに影響を受けるのだ。

だが李克強首相は、またもや南シナ海問題に関して、表面的な理想論に終始した。やはり危機には弱い政治家である。