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中国・李克強首相が「最後の会見」で語った20のこと
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近藤 大介 プロフィール

➇サービス業の管理の開放

深圳特区報記者:「李首相は昨年10月、深圳を訪れて『全国大衆創業、万衆創業週間』のイベントに参加した。おかげでこのイベントは、一週間で50万人が参加して、大いに盛り上がった。この『二つの創』の熱情は、今後も続いていくと思うか?」

李克強首相:「『二つの創』は『インターネット+』(インターネットを活用した新興産業)の時代に、『サービス業の管理の開放』を推進するということだ。

この3年以上というもの、毎日平均で4万以上の市場主体(民間企業など)が会社登記し、1000万人以上の雇用に結びついてきた。その話を海外の指導者にすると、小国の指導者でなくても非常に驚かれる。この『二つの創』は、第一次産業から第三次産業まで、大企業から中小企業までをカバーする。

その他、新産業の成長は政府の職能の変転を促す。いろいろと議論はあるが、われわれは引き続いて開放的な態度を取り、新産業の健全な発展を促していく。

私は常に想い、また常にそう考えているのだが、中国には1.7億人もの高等教育を受けたハイテク人材がいて、8億人前後の労働力がある。これらが結合したら、中国市場と世界市場に巨大なチャンスをもたらす。中国人は勤労で智慧がある。あとは政府が創造の環境を整えてやればよいのだ」

【短評】
この回答は、まさに李克強首相の「遺言」の中の白眉だった。「我一直在想、也一直这么認為」(私は常に想い、また常にそう考えているのだが)と、李克強首相は最高潮に語気を強めて、中国経済の将来の展望について述べた。

これは極論すれば、「中国人は世界最高の能力を有し、また条件も整っているのに、習近平主席が環境を整えないから経済は悪くなるのだ」と言いたかったようにも聞き取れた。「自分には方向性は見えているのに権限を与えてもらえない」という李首相の心の叫びである。

 

「香港独立」問題について

フェニックステレビ(香港)記者:「先の『政府活動報告』で李首相は香港について言及し、初めて『香港独立』問題に触れて、香港独立には未来がないと指摘した。これは中国政府の政策の変化を意味するのか。たとえば『一国二制度』と言うものの、『一国』を強化して『二制度』を弱体化させるとか? もしくは中央政府の香港に対する支持が減るとか?」

李克強首相:「それについては、『政府活動報告』で述べた通りだ。『一国二制度』は揺るがないし、どこかへ行ってしまうこともないし、変形することもない。たとえば昨年、『深港通』(深圳と香港の協力)を始めた。今年は香港と大陸との『債権通』(債権の協力)を始める。これによって香港市民の投資先は増え、恩恵を受け、香港の長期繁栄と安定に寄与するだろう」

【短評】
香港は、3月26日に行政長官選挙を行うが、香港市民による直接選挙を行うと期待されていたこの選挙は、2014年8月に北京の全国人民代表大会常務委員会(国会の幹部会)によって骨抜きにされてしまった。結局、自由な直接選挙は実現せず、北京政府が推す林鄭月娥・元香港行政府政務司長(香港ナンバー3)が当選するだろうと、香港メディアは報じている。

その選挙を前にして、「香港独立運動のようなマネはするなよ」とクギを刺したのが、質問にあった李首相の『政府活動報告』の香港独立のくだりである。3月5日の香港のトップニュースは、この一節に関することだった。それほどいま700万香港市民は、北京政府の圧力強化に敏感になっている。

今後の中ロ関係について

タス通信記者(ロシア):「(中国語で)中ロ関係についてどう見ているか? 世界経済が不安定な中で、またエネルギー価格が上下する中で、両国の貿易は発展するか?」

李克強首相:「すべて中国語で質問するなんて、あなたは勇気がある。中ロは互いに最大の近隣であり、全面的戦略的パートナーシップ関係にある。中ロ関係の健全で安定した発展は、地域ばかりか世界にとっても有益だ。

昨年、両国の国家元首は何度も会い、多くの共通認識に至った。中ロ総理会議も何年も定期的に開催しており、こうしたこと自体が中ロ関係の安定を示している。

中ロ貿易は、たしかにエネルギー価格の下落などの要因の影響を一定程度受けた。たしか昨年のこの記者会見で、私は中ロ貿易はV字回復すると述べたが、この予言は実現しているではないか。特に今年の1月、2月は、中ロ貿易は大幅増となった。これは中ロ貿易の潜在力が非常に大きく、補完性が強く、目標が実現することを示している」

【短評】
中国は常に、第一にアメリカを見て、第二にロシアを見ている。その際、中国にとって重要なのは、中米関係と中ロ関係の方が米ロ関係より良好になることである。だからトランプ政権が発足した当初、中国は米ロ接近にものすごく神経質になっていた。

トランプ大統領とプーチン大統領は、7月のハンブルクG20で、どのみち顔を合わせる。だから習近平主席としては、それまでに訪米しないといけないと考えている。4月上旬に米中首脳会談をセッティングしようとしている最大の理由は、中国側としてはロシアだったと言える。

為替制度改革について

『財新週刊』記者:「為替の問題を聞きたい。現在、人民元は元安圧力が強まっていて、それを喰いとめるために準備外貨を消耗している。この状況をどう見ているか」

李克強首相:「まず為替の問題だが、昨年は主要な国際通貨が米ドルに対して安くなったものの、人民元は比較的小幅の下げで済んだ。このことからも中国は、人民元を切り下げて輸出を伸ばそうなどと意図してはいないのだ。

もしそんなことをすれば、中国企業の構造改革による発展にも不利だ。そもそも中国は、貿易戦争を望んでいないし、それは国際貿易と通貨システムの安定化という面から見てもマイナスだ。

中国は人民元の為替制度改革を進め、市場の需給に根ざした管理型変動相場制度を行っていく。人民元の為替が安定していることは、国際通貨システムへの重要な貢献になるのだ。

外貨準備については、中国は世界最大の外貨準備国だ。いまだに十分あるし、輸入品や短期償還が必要なものへの支払いにも足りている。それは国際水準よりも、はるかに高いレベルだ。

人民元と外貨との兌換は、企業は正常に行っているし、中国人が留学や海外旅行へ行く際の兌換も保証している」

【短評】
『日本経済新聞』(3月18日付)は「中国資本規制 日本企業に影 人民元の国際化揺らぐ」という記事を掲載した。資金流出に歯止めがかからなかくなった中国は、外貨の持ち出しを強力に規制し始めたというのだ。

これは李克強首相の「正常な兌換」発言と矛盾する。特にトランプ政権の発足後、中国経済の最大のリスクは、国有企業改革に加えて、資金流出である。李克強首相率いる国務院がこれにどう対処していくのか、日本は引き続き注視していく必要がある。