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中国・李克強首相が「最後の会見」で語った20のこと
内外記者との一問一答すべて公開する
近藤 大介 プロフィール

朝鮮半島問題について

日本経済新聞記者:「(中国語で)朝鮮半島問題について聞きたい。ティラーソン国務長官が今日、訪日し、その後、中韓を訪問する。北朝鮮は継続してミサイル実験を行い、核兵器計画を推進し、北東アジアに緊張をもたらしている。そんな中で、中国はどのような行動を取るのか。日本などとどうやって手を組むつもりなのか」

李克強首相:「あなたはどこで中国語を勉強したのか。標準中国語が素晴らしい」

記者:「最初は北京で学びました。その後台湾に住んだので、台湾訛りがあるかと……」

李克強:「朝鮮半島問題における中国の立場は明確で一貫している。すなわち半島の非核化の実現、半島の平和と安定の維持と保護、そして対話と交渉による問題解決だ。国連決議を通して中国は常に態度を鮮明にしてきたし、かつ厳格に執行してきた。中国は終始、核不拡散システムを固く維持し保護する。

たしかにこのごろ、朝鮮半島と北東アジアには緊張した雰囲気がある。だが緊張が衝突になれば、関係する誰もが被害者となるのだ。だから緊張を和らげていかねばならない。誰も自分の家の前の混乱が続くのは望まない」

【短評】
習近平主席の忠実な下僕である王毅外相は、3月8日の全国人民代表大会での会見で、日本人記者の質問に、「日本人の心の病を早く治せ」と暴言を吐いた。ところが李克強首相は、日本人記者を誉め上げた。こうした態度からも、「団派」(中国共産主義青年団出身者)は、基本的に親日だということが見てとれる。

だが、李克強首相の最大の弱点は、危機に弱いことである。平時の経済政策などは素晴らしいのだが、中国に危機が起こると、とたんにお手上げとなってしまう。その点、習近平主席は肝が据わっていて、有事になると滅法強い。もとより中国は年中、有事のようなものなので、習主席vs李首相の権力闘争は、前者が後者を圧倒してしまうのである。

 

北朝鮮問題に関しても、李克強首相の物言いは、まるで他人事のように聞こえる。北朝鮮と国境を接し、最大の貿易地である遼寧省のトップを4年も務めていた政治家とは思えないのだ。その点は、この人がもし中国のトップに就いていたなら、中国はもっと混乱していたのではないかと想像してしまう。

〔PHOTO〕gettyimages

⑥国内の就業問題について

中国中央テレビ記者:「就業問題について聞きたい。李首相は常々、『就業は民生のもとである』と述べている。今年の李首相の『政府活動報告』(3月5日に演説)でも『今年は特に就業に対するプレッシャーが大きい』と述べている。今年中国で、もしかしたら大量の失業者が出るのではないか?」

李克強首相:「あなたが言及した『政府活動報告』で挙げた主要な経済社会発展指標のうち、私は一つを引き上げた。それは、都市部の新規就業者数を、昨年より100万人引き上げて1100万人としたことだ。

年間6.5%の経済成長を達成するには、就業者数を増やす必要がある。就業は13億人以上いる人口大国の最大の民生だ。就業は経済発展の礎であり、財政が増える源だ。われわれは過去数年、常に積極的な就業対策を行ってきて、4年連続で年間1300万人以上の都市部での新規就業を達成した。今年はさらに就業を優先させ、失業率を下げていく。

今年(7月)、795万人という史上最大数の大学生が卒業し、高卒以下も500万人くらいいる。さらに生産過剰業界の失業者数十万人の転職も進めていかねばならない。ぜひ『親方日の丸』に頼るのではなく、自分の労働と知恵で創造し、輝かしい未来を切り開いていってほしい。内外の記者たちには、中国の就業は中国自身の努力によって行われていることを強調しておきたい。

中国は完全に、就業を拡大する能力を持っている。大規模な失業者は出さない。もし一時的に就業できなくなっても、政府が責任もって基本的生活を保障する」

【短評】
就業問題に関しては、「雇用ナショナリズム」と揶揄されるトランプ米大統領の受け売りのようにも聞こえるが、たしかに過去4年、李克強首相は新規就業者の増加を唱え続けてきた。だが現実には、都市部でも農村部でも大量の失業者が出ている。

そもそも経済失速に喘ぐいまの中国で、新卒795万人分もの彼らが満足のいく職などあるわけがない。大卒で職に溢れた若者がコンビニでバイトをして糊口を凌いでいるのが現実である。

だがいまの若者は、一人っ子のため、両親や祖母が面倒を見てくれるというのも事実だ。都市部の家庭では、一家で一人だけ定職に就いて支えているというケースがよく見られる。彼らは現状に決して満足しているわけではないが、「30年前に較べれば、はるかによくなった」とも思っている。

現政権の成果と課題

聯合早報(シンガポール)記者:「今年は(来年3月に終わる)現政権の締めくくりの年だが、この4年の最大の成果は何か。逆に最も困難なことは何か」

李克強首相:「いまの質問は短いが大きいなあ。この4年の主要な成果を挙げるなら、それはすなわち、習近平同志を核心とする党中央の指導のもとで、全国が上から下まで共に努力し、経済を中高速成長させ、この4年の経済成長の(減少の)幅を1%程度に安定させられたことだろう。その間、産業を推進し、消費を引き上げ、5000万人の都市部の新規雇用を伴わせた。

ここ数年というもの、中国経済はハードランディングすると、絶えず耳にしてきた。だが昨年は世界経済が過去7年で最低の成長だったというのに、中国は中高速成長をしているではないか。こうした状況は、中国経済のハードランディング論を取り下げるべきだと告げている。

だがその一方で、『小さな政府』『開放と引き締めの結合』『サービスの改善』といったことを実現するのは、簡単なことではない。中央政府から地方自治体の末端まで、それこそ『最後の1㎞まで』道を通さないといけない。

数年前の『両会』で、ある人が審査批准の『万里長征図』を示したが、(小さな政府にした)いまは『百里』に変わっている。だが百里も少なくないので、まだ改革を推進しないといけない」

【短評】
いつ李克強首相の口から「習近平同志を核心とする党中央の指導のもとで」という、幹部たちの間で最近お決まりになっている接頭語が飛び出すかと思っていたら、ここでようやく出た。

だが、たった一度きりで、この後は二度と出なかった。どこかで一度くらいは言わねばと考えていたのだろう。ちなみに、「習近平」の名前も、最初の質問への回答で出て以来、2度目で、以後は一度も出なかった。