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中国・李克強首相が「最後の会見」で語った20のこと
内外記者との一問一答すべて公開する
近藤 大介 プロフィール

中国経済の役割について

中国人民ラジオ記者:「今年の経済成長予測を6.5%程度に下げたが、世界経済に不利な影響は出ないのか。また中国経済は、特に金融面で多くのリスクを孕んでいるという見方もあるが、中国経済は世界でどのような役割を演じていくのか?」

李克強首相:「6.5%成長というのは決して低くはないし、簡単なものでもない。私はかつて少林寺へ行って拳法の演技を見たことがあるが、幼い小僧が十数人をいとも簡単に倒してしまう。だが十数年鍛えた武僧は3人から5人くらいを倒すだけだ。

同様に、中国経済の総量はすでに74兆人民元を超えており、これは11兆ドル規模で、1100万人以上の新規雇用を伴っている。また世界経済の復調が遅れている中で、中国の貢献度は低くない。

リスクということで言えば、中国経済の最大のリスクは、発展しなくなることだ。いまは中高速の安定した成長を保持していて、世界経済の安定に貢献している。もちろん、記者が指摘した金融リスクは注視していて、何か問題が起こればすぐに処置をする。

中国の金融システム自体は安全であり、リスクはない。われわれは多くの処方箋を持っており、外貨準備の政策の多くはまだ実施していない。財政赤字は3%以下で、商業銀行の自己資本率は13%を満たしている。貸倒引当率も176%あり、これらは多くの国及び国際標準よりも上だ」

【短評】
中国経済に関して李克強首相は、習近平主席が自分に任せてくれたなら、もっとうまく舵取りしていくのにという自負がある。サラリと少林寺のあまり関係なさそうな話を出したのは、少林寺がある河南省の省長時代に、あの貧相な省を発展させたという自負があるのだろう。

〔PHOTO〕gettyimages

自由貿易と開放型経済について

ブルームバーグ記者:「謝謝主持人。李総理、您好」(司会の方ありがとう。李総理、こんにちは)

李克強首相:「中国語が上手じゃないか。そのまま中国語で続けてくれ。十分時間をあげるから」

記者:「不、我的中文不够、対不起(いやいや、私の中国語は不十分なので、すみません)。アメリカは世界貿易のシステムの司令塔の役割を降り、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)からは離脱した。そのため、自由貿易とグローバリゼーションを唱えている中国がその役割を果たすかのようだ。この自由貿易と開放型経済についてどう考えるか」

 

李克強首相:「経済のグローバリゼーションは、たしかに一部挫折を強いられているが、中国は一貫してグローバリゼーションと自由貿易を支持しているし、開放を推進している。実際、グローバリゼーションはどの国にも利益をもたらすのだ。門を閉ざして隣人を遠ざけてしまえば、問題は解決できなくなる。

中国は開放の拡大を不断に堅持しており、開放すればするほど状況はよくなる。中国の数十年の歩みは、ずっと開放政策を前進させてきた。昨年、中国の外資の受け入れ額は発展途上国中トップで、1260億ドルに達した。世界銀行によると、中国のビジネス環境は2013年から2016年までで、18位も上がった。上海で始めた自由貿易区は、すでに11の地域に広がった。

今年は『一帯一路』(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)の国際フォーラムも開くし、自由貿易や投資協定の交渉も行っていく。開放の度合いは大きければ大きいほど、そして深ければ深いほど、経済摩擦も増えるだろうが、その比率は低くなっていくのだ。中国は開放の高地と投資の熱地を固め、世界と共に発展のチャンスと恩恵を共有するのだ。

もちろん世界貿易の自由化には、世界各国の努力が必要だ。天下は天下人の天下なのだ。中国国内も、条件付きではあるが開放的態度を持って臨んでいく。対外的にも開放を推進するが、そうかといって他国に対しておせっかいなことはしない」

【短評】
習近平主席が毛沢東政治を理想としているのに対し、李克強首相は鄧小平政治を理想としている。私がこれまで演説などを聞いた中国の政治家で、鄧小平が定めた「改革開放」政策について言及する時、前半の「改革」よりも後半の「開放」の方に力を込めて語るのは李克強首相だけだ。

李首相は「経済開放」の象徴として、2013年秋に上海自由貿易区を始めたが、上海は江沢民派(上海閥)の本拠地であったため、習近平vs江沢民の権力闘争の最大の「戦場」となってしまい、自由貿易区計画は紆余曲折を余儀なくされた。それでも李首相は、「これだけは習主席に譲れない」とばかりに、11地域まで増やして、この自由貿易区の設置を李克強政治5年の集大成にしようとしている。

「小さな政府」への取り組み

『人民日報』記者:「この4年間、あなたはずっと『小さな政府』(簡政放権)を唱え続けてきた。実際、審査批准を減らすという任務の3分の1は完了したが、残り3分の2はどうなっているのか」

李克強首相:「『小さな政府』の核心は、政府の職能を変えて、政府と市場との関係をうまく処理していくことだ。だが一朝一夕にできるものではない。すでに初期の任務は成し遂げたが、その過程で政府内部に『立派なもの』が多いことに気づいた。批准の権限、行政許可、資格認証、企業が受け入れがたい徴収などなどだ。

政府はたしかに、管理すべきでないもの、管理する権限のないものまで管理し、市場の手足を縛り、行政の効率を下げている。だからわれわれは、自己の革命が必要なのだ。内に向けて刀を振るわないといけないのだ。

私は常に、壮士腕を断つ堅忍不抜の精神で進めていくと言ってきた。どんな問題にぶち当たろうとも、大きな阻害要因があろうとも、中国には十分な強靭さがあると信じている。

『小さな政府』と『開放と管理の結合』『サービスの向上』は、三位一体である。それは政府が、管理監督と質的向上の仕事を国民へのサービス向上に多く傾けることで、市場を開放してやることなのだ。市場を主体とした公平な競争ができる環境を整えてやることなのだ。

簡単に言ってしまえば、法律と規則に基づいた市場の主体性には、『前進、前進、また前進』の信号を送ってやらねばならない。労働の創業と創新を行う人には、『いいぞ、いいぞ、もっとやれ』と青信号を出してやらねばならないのだ」

【短評】
「小さな政府」を目指す李克強首相と、「大きな政府」(共産党中央に権限が集中するシステム)を目指す習近平主席との綱引きが、過去4年の中国政治の本質だった。このトップとナンバー2の権力闘争は、いまやトップの一方的勝利に終わろうとしている。そこで李首相は、まるで「遺言」のように「簡政放権」(小さな政府)を力説しているのである。