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中国・李克強首相が「最後の会見」で語った20のこと
内外記者との一問一答すべて公開する

先週のことになるが、3月15日午前中、1000人近い内外の記者たちを北京の人民大会堂に集めて、全国人民代表大会(国会)のトリとなる李克強首相の記者会見が行われた。李克強首相にとっては、2013年3月に首相に就任して以降、5回目となる会見だった。

中国の首相は年に一度、全国人民代表大会の最終日にしか会見を行わない。そのため、今年後半に開かれる第19回中国共産党大会で再選されれば、あと5回。だが再選されなければ、今回が最後の記者会見となる。

結論を先に言えば、後述するように、おそらく首相としての最後の会見だったろう。本人もすでにそのことは自覚しているようで、非常にサバサバした調子で、2時間17分にわたって思いの丈を吐露した。以下、詳細に見ていこう。

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李克強首相の「遺言」

司会役の傅莹・全国人民代表大会外事委員会主任委員(前外務副大臣)が、「第12期全国人民代表大会第5回全体会議が先ほど終わり、李克強総理が内外の記者に会いにお越しくださいました。まずは一言いただきたいと思います」と、李克強首相を紹介した。

この日は、中国共産党の党色の赤ではなくて、あえて青いネクタイを着用して現れた李克強首相は、こう口火を切った。

「今日、多くの記者が、2時間も3時間も前からこの場で私を待っていたと聞く。本当にお疲れ様と言いたい。あなたたちはプロ精神にあふれていて、今回の『両会』(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議)報道に対する苦労に、感謝を申し上げたい。時間も限られているので、単刀直入に、記者の皆さんたちの質問に答えていきたい」

この5年間というもの、李克強首相は、決して記者会見が上手とは言えなかった。そもそも年に一度しか会見を行わないのだから、仕方ない面もあるのだが、まるで老獪な京劇役者のような応答を、10年にわたって行ってきた前任の温家宝氏に較べると、やはり物足りなさは否めない。

察するに、李克強首相は性格的に、習近平主席のように「共産党の姓を名乗れ」と上から目線で記者たちに接するのは好まない。そうかといってヘラヘラした態度を見せれば、国務院総理(首相)の威厳を損なうから、やはり厳めしい顔つきになる。加えて、「オレは安徽省の農民から総理になった」と言って憚らない人なので、「太子党」(革命元老の子弟)のような品の良さは滲み出てこない。

結果、われわれ記者から見ると、会見での李首相の言動や挙措に、ぎこちなさと不自然さを感じてしまうのである。

 

それが今回に限って言えば、これまで5回の会見で一番、自然体だった。まず記者に対してねぎらいの言葉をかけたのも、記者に媚びようとしたのではなくて、本心の発露と見るべきだろう。根はいい人なのである。

李克強首相の会見は、外国人記者8人、中国人記者8人が、それぞれ1問ずつで計2時間というのが、一応の習慣になっている。以下、ダイジェスト版で記者との一問一答を訳出し、それぞれに私の短評を加えてみた。

記者たちの質問は、現在の中国の状況を様々な面から浮き彫りにしていること、及び李克強首相の「遺言」とも言える回答なので、長くなってしまうことをご寛恕願いたい。

米中関係の今後について

今回は、単なる偶然かもしれないが、トランプ政権に最も嫌われている米CNNの記者の質問から始まった。

CNN記者:「トランプ大統領は一貫して中国を批判している。中国はアメリカの就業を不当に奪い、為替政策で批判し、地域の安全保障を維持し保護する上でも、中国の役割は不十分だとしている。早ければ来月にも米中首脳会談が開かれるが、中国はそこでどんな成果を得ようとしているのか。中国にとって健全で持続可能なアメリカとの関係を築くボトムラインは何なのか。米中関係の発展は可能と思うか、それとも前途多難と思うか?」

李克強首相:「あなたの質問は、昨年9月に私が国連総会に出席した時、ニューヨークの経済クラブで講演したのだが、その時に出た質問を想起させる。当時アメリカは大統領選の真っ最中で、新たな大統領の時代になって中米関係は変わるのかと聞かれたのだ。私の答えは、誰が次期アメリカ大統領になろうとも、たとえ中米関係は幾多の雨風を経験したとしても、常に前向きに進んでいくというものだ。つまり私は、楽観的な態度でいる。

トランプ大統領になってから、習近平主席と電話で話し、両首脳はともに中米関係を発展させていくことで一致した。トランプ大統領も高官たちも、『一つの中国』の政策を堅持することが、中米関係の政治的礎であると明確に述べている。この礎がある限り、中米関係の前途は広がっている。

たしかに就業問題、為替問題、安全保障問題などで意見の不一致はある。だが双方が戦略的立場を保持し、対話を強化し、交渉に臨めば、相互理解は進んでいくはずだ。

貿易問題に関しては、私は『両会』で外資系企業に勤める代表(国会議員)から、こんな話を聞いた。『いくら貿易格差があるからと言って、(アメリカ企業)製品の利益の9割はアメリカが持っていき、中国の利益は2~3%しかない』。

昨年の統計を見ても、中国企業のアメリカ投資によって、100万人の雇用を生んでいる。もちろん両国の統計の取り方は違うのだろうが、とにかく賢い方法は、意見が合わない部分には手をつけず、共同の利益を拡大することで、意見の不一致の部分の割合を減らしていくことなのだ。

数日前、海外の有名なシンクタンクが発表した文章を読んだのだが、もし中米で貿易戦争が起これば、まず被害を受けるのは外資系企業、特にアメリカ系企業だということだ。中国はアメリカとの貿易戦争を望まない。貿易戦争は貿易の公平さをもたらさず、双方が共に傷つくだけだ」

【短評】
李克強首相は基本的に、親米・親欧・親日である。つまり、習近平的な大上段に構えた「皇帝外交」は望んでおらず、基本的に諸外国とは同じ目線で接しようという態度である。

そんな中で昨年9月、それまで習近平主席が自ら出席していた国連総会の晴れ舞台に、代わって初めて出席した。ついでにカナダとキューバを訪問し、11日間にもわたる外遊した。まさに「李克強外交」のハイライトで、そのことを誇りたいがために、国連総会の逸話を出したのではないか(中国の政治家が何かの例を出す時は、ほぼ確実にそこに政治的意図を秘めている)。

歴史に「もし」はないが、中国が李克強主席、アメリカがオバマ大統領という組み合わせだったなら、米中外交は「蜜月時代」を迎えていたことだろう。