ブルーバックス
謎多き日本最大の科学研究所「理研」、その全貌とブッ飛びの研究成果
ここに日本の未来がある!
山根 一眞 プロフィール

光合成の解明

「SPring-8」と「SACLA」を駆使して解明できた成果に、光合成の解明がある。

あらゆる生物が太陽エネルギーで生きているというのは、植物が光合成をやってくれているおかげだ。

植物は水と空気中の二酸化炭素を取り込んで、葉を茎や幹を作り果実を結ぶ。アマゾンの鬱蒼たる熱帯雨林もコシヒカリもフライドポテトもマスクメロンもイチゴの「あまおう」も、光合成による炭水化物の生産のおかげだ。光合成は酸素を放出してくれてもいる。光合成によって、私たちの命は支えられている。

光合成は、太陽光をエネルギーに使い水を分解して酸素と水素を作ってもいる。だが、その化学反応のメカニズムは複雑、かつ超高速で進められているため、長いこと人がとらえ知ることは不可能とされてきた。

だが、その壮絶工場の製造工程で必要な化学物質(触媒=タンパク)の正体が、「SPring-8」と「SACLA」で突き止められていた。岡山大学大学院教授、沈建仁さんの大成果だ。

その触媒を人工的に合成、化学反応の道筋をつかむことで、水と太陽光だけを原料に、タンクの中で水素エネルギーや食糧、燃料、建材、さらに肥料まで作れるようになる「日」が見え始めたというのだ。

石油不用のプラスチック、8000億円分のガソリン節約タイヤ、太陽光と水だけで生産できる人類の生命維持資源……。

今回の取材では、理化学研究所の研究成果のごく一部に触れただけだが、資源に乏しい日本が、資源輸入に頼らず、環境にダメージを与えず、豊かさを維持していく「持続可能な社会」という魔法を手にできるじゃないか、という確信をもった。

 

理研抜きに日本の科学は語れない

科学は難しい。最先端科学は理解できない、という人が圧倒的に多い。「日本人がノーベル賞受賞!」というニュースが報じられるたびに日本中が熱くなるが、それぞれの研究内容は一般の人には理解しがたい内容ばかりだ。

それは当然のことで、いずれも世界の最先端の科学での業績だからだ。

理研の最先端の研究を訪ね歩いたが、私自身、研究者が語る「用語」すら理解できないことがしばしばだった。

その「用語」を理化学の専門事典で調べても、収載されていないことが多かった。新しい発見や新しい考え方に対して創られたばかりの「用語」だからだった。

研究者たちはマイペースで、研究について、その成果について話し続けるのだが、それは、その分野の大学院の最先端の講義を聞いているようなもので、正直、何度も逃げ出したくなった。

しかし、仙台、埼玉県和光、横浜、大阪府吹田、神戸、兵庫県播磨と理研の研究拠点を訪ね、およそ70人の研究者に会いインタビューを続けながら、これはえらいことになっているぞ、という思いがどんどん強くなっていった。将来像が見えなかった持続可能な社会は作れるじゃないか、と思ったのはそのひとつだ。

理化学研究所は、2014年にSTAP細胞をめぐる不幸な事件に突き落とされ、皮肉にもあの事件によってその名が広く知られるようになった。理研を取材しているというと、「あの事件のことか」と聞かれることが多かった。それは、あの出来事が理研のすべてと受けとめらてしまっていることを物語っている。

それが、長年にわたり理研を取材してきた私には、何とも無念でならなかった。

日本の科学力を語るには、理解するには、理研抜きにはあり得ない。だからこそ、一度、きっちりと理化学研究所の全てを取材して歩きたいという思いがやっと叶ったのである(結果は、その片鱗を知るしかできなかったが)。

人類史に残る偉業

2016年12月、理研の実験核物理学者、森田浩介さんのグループは、日本の科学界の100年以上にわたる悲願だった新元素の合成、そして周期表への記載を、13年半におよぶ苦闘の末になしとげた。

「113番元素=ニホニウム」の合成成功は、アルファベットの26文字に新たな1文字を加えたのに匹敵する偉業だ。