地震・原発・災害 台湾

日本人が知らない、3.11で台湾から届いた義援金200億円の真実

日台をつなぐ名も無き人々の感動秘話
木下 諄一 プロフィール

勇気ある個人の行動が、国よりも大きな力になる

――3章に「台湾の新聞に感謝広告を打とう」と動いた愛子が、匿名サイトで「売名行為」と叩かれるくだりがあります。日本のボランティアが海外に比べて活発化していかないのは、一部からこういう声があがってしまうからなのかなと思うのですが。

そういう部分もありますよね。日本人はいろんなことにうるさくて細かい。そして綿密な気がします。

――たしかに、3章にはSNS上で多くの人の意見をまとめていく難しさも書かれていました。

今は何も決まっていませんが、いずれこの本が台湾で出版されたら3章は台湾の人に読んでもらいたいなと思って書きました。こんな大変な過程を経て、あの新聞広告は出たんだよと。

台湾主要二紙に掲載された感謝広告「ありがとう、台湾」

――決して綺麗事だけではなく、その時何が起きたかが包み隠さず描かれていたと思います。

そこはなるべく見せたいと思った部分です。基本はフィクションですから細かなところはいじっていますが、骨の部分をいじりすぎてはいけないというのがあったので。

――調理はしていますが、素材を楽しんでほしい料理なんですというところが伝わってきました。それに、個人が「多くの人に感謝の気持ちを伝えたい」と思った時、どのような行動を起こせばいいかが具体的に記されているなとも。そこは意識なさって?

伝えたいことは幾つかあって、そのうちのひとつであることは確かです。個人が勇気を持って一歩踏み出せば、国が動くより大きな力になる場合があると。

――「謝謝台湾計画」は実際にあった話ですが、発起人の方を取り上げようと思ったのは、どのタイミングだったんですか?

本格的な取材をはじめる前の章立てを考えている段階です。この人が実際にSNSで運動を呼び掛けている時は知らなかったのですが、後から知ってすぐに連絡を取りました。結果的に1章と3章で2章をサンドイッチにするような形になり、うまくまとまったのかなと思います。

――先ほどもちらりと触れましたが、食べ物の描写が多いですよね。

そこはサービス精神でもあるんです。というのも台湾で書いた小説に日本料理の描写を入れたんですが、出版後わりとすぐに「小説の中に登場する日本の食べ物」という講演会の話を頂きまして。取材先で聞いた「手のひらサイズの魚の内臓を取る時は割り箸を使う」なんて話をしたら、皆さん反応がいいわけですよ。

――食べ物の話は楽しいですよね。暮らしぶりも伝わってきますし。

それらが日本円で幾らなのかという感覚を摑んでもらえれば、募金の感覚も摑んでもらえるかなという狙いもありました。そういうところを書いておかないと、人って勝手に計算しますから(笑)。

――たしかに人はすぐに計算してしまいますよね(笑)。作品中にも感謝広告を打つためのお金がいくら集まるかを勝手に計算する人が出てきました。そういうおかしみもありつつ、的確な場面で政治の話も織り込まれていて「政治色を強く出さない」というスタンスとの折り合いが難しかったのでは? と感じたのですが。

意図的に排除するのもおかしな話ですしね。原稿が出来あがったとき、何人かに読んでもらったのですが、ほとんど全員から「政治色は感じない」と言ってもらえたので大丈夫かなと。

――代表処の真奈宛に愛子から「台湾の新聞社の連絡先を教えてほしい」という連絡が入った時、上司の小笠原がいったんはそれを断るじゃないですか。その後、小笠原と部下の柳田が飲みながらその件について話をするシーンが出てきます。

ひとつは、代表処のようにひとつの見解で動いているように見える場所でも、中に居る人の意見は多様であるということが描きたかったんです。

また、最初は代表処の方針に忠実な人でも、義援金が集まっていく過程を目の当たりにすると考え方が変わってきますよね。その変化を描きたいという思いもありました。

 

――なるほど。それが伝わる印象的なシーンでした。原稿を書き終えていかがですか?

構想から完成までの2年3ヵ月は本が出るという確約がないままの前進だったんですね。ところが不思議とそれが理由で後退しようとは思わなかったし、そんなことを考えている間に少しでも手直ししようと思っていたんです。

ですから、書き終えたばかりの頃は「とりあえず終わった!」というのと同時に「どうやって本にしよう」という思いがありました。

――その後、講談社で本が出ることになったわけですが。

作品をいろんな人に読んでもらえること、日本で小説を出せること、全部素直に嬉しいです。と同時に、売らなきゃいかんぞと。

――先ほど、「もし台湾の人に読んでもらえたら」という話が出ました。台湾でも出版の話が進んでいるのでしょうか?

親しい編集者何人かには話していますが、彼らは物がないと動かないので、具体的にはこれからです。

――日本人だとそこは察して動くというか。

すごいですよね、日本人のフォアキャスティング力は。日本人は初めての人と話をしてもイメージを共有することができます。しかし、海外では日本の感覚で話をしていて相手も同じものを共有していると思ったら、まるで共有できていなかったということがあるんです。これは日本人のすごいところだと思います。