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報道小説『罪の声』 作者が「異色の作家」である理由

過去9作中、8作のジャンルが違うなんて…
北上 次郎

エンターテインメント「労組」小説

第三作の紹介が残っていた。

今回文庫化される第三作『ともにがんばりましょう』は、どんなジャンルだと思いますか。

塩田武士のことであるから、将棋小説ではなく、音楽小説でもなく、警察小説、純愛ミステリーでもない。さらに、ゲイ小説、ボクシング小説、事件小説でもない。では、何か。読むと驚く。これはなんと、「労働組合小説」だ。

社員五百人強の大阪の新聞社を舞台に、組合側と経営側の団交の様子が正面から描かれるのである。誤解を恐れずに書くならば、ただそれだけの小説だ。ところが、にもかかわらず、ぐいぐい読ませて飽きさせない。団交を描いてエンターテインメントになるなんて、誰が考えただろうか。

 

舞台となる新聞社は、大阪で朝刊70万部、夕刊40万部を発行する地方紙である。この不景気で業績は芳しくない。経営側はまず深夜労働手当の引き下げを求めてくる。それに対して組合側はどう対処していくのか、という展開になっていく。

主人公は入社6年の武井涼。社会部記者だが、希望する文化部への異動をエサに組合執行部に入るよう口説かれる。

結局彼は新執行部に入り、各部署の要求を聞くという地味な仕事から活動を始めていく。その組合活動の日々がディテール豊かに描かれ、それだけでもたっぷりと読ませるが、もちろんそれだけではない。クライマックスは団交だ。息づまるようなその攻防が丸ごとエンターテインメントになっているのは見事。特に、涙がこみ上げてくるラストは圧巻である。

秀逸な点は幾つもあるが、最大の美点は、典型的な悪役を登場させないこと。そういう安易な道をこの長編は取らない。組合側も経営側も、新聞を愛することに変わりはないのだ。にもかかわらず、彼らは戦わざるを得ない。最良の未来を手にするために。そのきわどい真実を、この長編は鮮やかに描いている。

敵は倒すためにあるんやない、という組合委員長寺内の言葉がしみ入ってくるのもそのためである。

あらすじ/ 上方新聞に入社して六年の武井涼。極度のあがり症で一切の交渉事に向かないが、憧れの文化部への異動をえさに委員長に口説かれ、労働組合の執行委員を務めることに。恐る恐る足を踏み入れた世界は、強烈な個性の執行委員七人と経営陣がぶつかり合う怒濤の現場──。折しも会社が提案してきた「深夜労働手当引き下げ案」が社内で波紋を広げていた。手当の引き下げは回避できるのか。一時金の上積みは獲得できるのか。

『IN★POCKET』2017年3月号より