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檀一雄・深沢七郎・水上勉…嵐山光三郎が明かす強烈な文士たちの素顔

これぞ人生最高の10冊!
嵐山 光三郎

「お前が書け」と言われた

5位の『雁の寺』は、水上勉さんが直木賞をとった代表作。ひもじく辛かった子供時代の体験を下敷きにした作品で、あるとき「半ズボンも買ってもらえなかったとありますが、あれは本当ですか」と聞いたら「ほんまですね」って言いながら涙ぐむんですよ。

「海」という文芸誌の編集者だった村松友視さんと水上さんの打ち合わせにたまたま居合わせたことがあるんです。村松さんは「ベンさんねぇ、ここは話がくどくなるからとりましょう」と、すごくくだけた話し方をする。

僕は「水上先生」と言っているのに。水上さんも「そうか。そうやなあ」と返している。なるほど、こうやればいいのかと思い、自分の番になってマネをしたら「なに言うとるんや、おまえ」とこっぴどく叱られました。思い出すたびヒヤッとしますよ(笑)。

森敦さんが62歳にして『月山』で芥川賞をとった。山形県の月山のふもとにある寺に男が居候して一冬を過ごす、自然と人間の生と死を描いた深遠な作品です。檀さんが亡くなった後、夢中になって追いかけたのが森さんでした。

独特な人で、落ちている石を拾って突然、「わかるか?」と言ってきて、「石の上は乾いているけれど、裏返すと湿っている。つまり、陽と陰を表しているんだ」と。月山の寺を見つめて「これが涅槃」と呟いたり。

そんな宇宙観念論的な、飛びぬけた一面がありましたね。

ときおり家に電話してきては僕が留守にしているとカミサンと1時間くらい話し込んでたりもしていましたよ。

 

柳生武芸帳』は五味康祐さんのベストセラーです。五味さんから武芸の話をじかに聞くのがやたらと楽しかったんですが、原稿をもらいにホテルにいくと枚数が足りないということがあった。

すると「明日からワシはパリ。おまえが適当に書いとけや」って。自分でスジを考えるのが大変でしたよ(笑)。

(構成/朝山実)

「Y先生とは山口瞳で、サントリーの広報誌の編集をしていた坪やんが鞄持ちで先生と競馬に行ったときのことを書いている。貯金した五百円玉を鞄に入れていたとか、ペンは何を使っていたかまでも余さず書いている」

嵐山光三郎さんのベスト10冊

第1位『リツ子 その愛・その死
檀一雄著 新潮文庫 入手は古書のみ
若くして結核で余命宣告をされた愛妻を夫が看病する家族小説2部作。「檀一雄さんといえばこれが一番の傑作だな」

第2位『楢山節考
深沢七郎著 新潮文庫 430円
食い扶持減らしで老母を裏山に捨てる。「50回は読んだ。『である』『だった』で続く文体が僕に染み付いている」

第3位『気違い部落周游紀行
きだみのる著 冨山房百科文庫 1400円
よそ者の視点で農村の暮らしを観察。「中身は普遍的。おかしいのは彼らと私達どちらなのかを問いかける民俗学の本」

第4位『ひかりごけ
武田泰淳著 新潮文庫 520円
「船が漂流、飢えで人肉を口にする話。知床まで先生と一緒にこけを探しに行きました」

第5位『雁の寺・越前竹人形
水上勉著 新潮文庫 550円
昭和36年直木賞作品。京都の寺にもらわれた10歳の孤独な少年が抱いた殺意とは……

第6位『鬼平犯科帳 決定版
池波正太郎著 文春文庫 660円
「後味のわるい事件が落着し、茶屋にてサザエの壺焼きで一杯という情景の演出が絶妙」

第7位『月山、鳥海山
森敦著 文春文庫 590円
ミイラや密造酒が作られている閉鎖的な集落に、よそ者の主人公が溶け込んでいく

第8位『柳生武芸帳』上下巻
五味康祐著 文春文庫 943円
幕府を揺るがしかねない「武芸帳」の秘密とは? 争奪戦が繰り広げられる歴史大河小説

第9位『アブサン物語
村松友視著 河出文庫 460円
「アブサンと名づけた猫を飼うところから看取るまでの話。最後は泣けてしかたがない」

第10位『東京煮込み横丁評判記
坂崎重盛著 中公文庫 760円
「酒とつまみのエッセイだけど、両国浅草の安い居酒屋にこんなに詳しい人はいない」

週刊現代』2017年3月25日・4月1日号より