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確定申告で「損する」高齢者が続出中 〜この落とし穴に気をつけよ!
複雑な税制の盲点
週刊現代 プロフィール

「自分が損をしたかもしれない、とはじめて気づいたのは去年の8月ごろです。新しく郵送されてきた医療費に関する書類を読んだのですが――。なんと、医療費の窓口負担が1割から3割になっていたんです」

たしかに繰越控除により、青木さんの株式による所得はマイナス50万円(増収分実質0円)で計算されていた。ところが、医療費の窓口負担割合の計算は異なり、この年に儲けた150万円がそのまま所得の増加に加わってしまったのだ。

後期高齢者医療制度では、被保険者の収入の合計額が520万円(単身だと383万円)未満は窓口で1割負担だが、それを超えると「現役並みに所得がある」とみなされ、3割負担になってしまう。

つまり、青木さんは確定申告をして、前年の損を取り返したがために、高額の医療費を支払うハメになったのだ。持病を抱え、定期的な通院を余儀なくされている青木さんは控除以上の医療費を負担することになり、損をしてしまった。

所得税は軽くなっても、社会保険料や福祉サービスの自己負担分は高くなる場合がある。これが確定申告最大の「落とし穴」なのである。

ファイナンシャルプランナーの尾上堅視氏は次のように指摘する。

「税務署が徴収する税金と、医療・介護それぞれの社会保険料とで、損益に対する考え方がまったく違うことに気を付けなければなりません。節税を強く意識する一方で、社会保険への影響まで考えて株を売買される方が意外と少ないのです」

 

②「損益通算」で配偶者控除から外れた

先ほどの青木さんのケースのように、源泉徴収がある証券口座を利用しているのに、確定申告をしたら損をした、という例はほかにもある。

埼玉県に住む石川和子さん(71歳・仮名)は次のように語る。

「夫の退職後は、二人で年金生活を送っていました。私は専業主婦だったので国民年金をもらい、夫の扶養に入っている状態です。

私は数年前に不動産を売って作ったおカネを元手に、2つの口座で株式投資をしていました。ある年、ひとつの口座で250万円の利益が出て大喜びしていたのですが、もうひとつの口座で100万円の損失が出てしまいました。

そのまま放っておこうと思っていたのですが、『損益通算を確定申告するといい』と周囲に勧められ、申告をしました」

「損益通算」とは、複数の口座で株式を取り引きしていて、一方の口座で稼ぐものの、一方の口座では損になっていれば、申告することで取られすぎた源泉徴収分に応じた控除を受けられる制度である。ところが――。

「たしかに所得からの控除はありましたが、差し引き150万円が利益となり、夫の収入と合算すると『現役並みの所得』とみなされ、国民健康保険料がぐっと高くなってしまいました。おまけに合計所得金額が規定額を突破して配偶者控除を外れてしまったので、夫の負担も重くなってしまったのです」

70歳以上の場合、配偶者控除額は最大48万円となるが、本来しなくてもよかった確定申告を行った結果、かえって控除から外れてしまうことになったのだ。

石川さんのケースについて、前出・土屋氏はこう語る。

「実際のところ、株で損益通算して戻ってくる金額はそんなに大きな金額ではないことが多く、ほかの支出が増えて損をしてしまうことが起こりえます。特に専業主婦の方が株式投資を行うときには注意してください」

介護保険の負担増で大損

源泉徴収ありの口座で取り引きしている場合、確定申告をしなければ、口座内の所得は合計所得金額には含まれない。つまり、申告したぶんだけ損になるケースがある。
税理士の山本宏氏は語る。

「株式や配当にかかる税金と社会保険料の計算は複雑で、しかも一番の問題は税制と社会保障の制度がリンクしていないことです。だから一般の申告者にとっては非常にわかりにくいのです」

東京都後期高齢者医療広域連合の担当者は次のように語る。

「毎年8月に、所得に応じた医療費の見直しがあるのですが、この時期になるとお年寄りからのお問合せが多くあります。送付された資料を見るまで、自分の保険料や負担が大きくなったことに気づかなかった方もいらっしゃるようです」