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金融・投資・マーケット

銀行で毎月分配型の投資信託を勧められたら、こう考えよ

法律は守ってくれないから…

金融機関でリテール(個人向け)営業の場に関わると、「適合性の原則」を強く意識しなければならない。適合性の原則とは、大まかに言うと、顧客の属性に合わない商品に顧客を誘導してはいけないというルールだ。

金融商品取引法第40条を見よう。

「金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、その業務を行わなければならない」としてその第一項目目には、次のように記されている。

〈 金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けることとなるおそれがあること 〉

「知識」「経験」「財産状況」は分かるとして、「金融商品取引契約を締結する目的」とは、例えば、老後の生活に備えるためといった「投資目的」を指すと説明されることが多い。

典型的には、高齢で金融知識も投資経験も乏しい人(読者の親であるかもしれない)に対して、複雑でリスクの大きな運用商品を買うように勧誘するような行為を禁止しているものだと理解される。

 

曖昧で役に立たない法律

つい3日ほど前、かつて大手証券会社に勤めていた筆者の知り合いが電話を掛けてきて、自分の80代の母親に証券会社が毎月分配型の投資信託を売ったことについて大いに怒っていた。

「もう80代で十分な金を持っている婆さんが、今さら株式でリスクを取る必要なんてないし、その上、日本株に投資していながら、通貨のリスクがブラジル・レアルだなんて、そもそも意味不明だよな。お袋が理解できずに買ったことは、息子の俺が100%保証するよ」と、いかにも元証券マンらしい大声でまくし立てた。

筆者は、「ああ、あの投信か…」と悪徳商品の一つが頭に浮かんだ。確かに、このセールスは褒められたものではないので、こうした事例を規制できる法的な根拠は必要だと思ったのだが、厳密に考えると、果たして彼の母親に対する勧誘が適法なのか否かはかなり微妙だ。

彼の母親が、例えば、ブラジル・レアルで為替リスクを取ることの意味を正確に理解していないことは、まず間違いないと思う。また、リスクを別としても、その商品は手数料が高すぎて、それだけで「まともな投資対象」だとはとても言えない。

素朴な正義感と論理感で考えると、こんな勧誘は「違法」に決まっていると思い、彼と怒りを共有できそうに感じるのだが、法律の議論としては、一方的にそうでもないらしい。

法律関係の学者と証券関係者が集まったある研究会の議事録を見ると、「知識」「経験」「財産状態」「投資目的」の4つのうち1つに適合しない場合に違法と考えるべきか否かについて議論がある。

形式的には4要素が「及び」でつながっているので、1つでも欠けるとダメだとも読めるが、「4つの要素を考慮した上で全体として適合していたらよろしい」という解釈をすることも可能ではないかといった専門家のやりとりがある。

そう言われると、そのような気もする。例えば、本人にとって「最初の投資」では、顧客は投資経験が無いのだから、条件としての「経験」を厳密に捉えると、誰も勧誘によって投資を始められなくなってしまうではないか。

また、もう一つの論点として面白かったのは、顧客を「勧誘」さえしなければいいのか、あるいは、顧客自身が不適合な取引を望んだ場合はどうなるのか、という議論だった。

善意を前提とする世間常識では、顧客が明らかに不適合な商品の購入を望んだ際に、「私どもは、この商品は、お客様には不適切であると考えます」と述べるのが誠意ある態度だと思うが(近年、金融庁が言う「フィデューシャリー・デューティー」の立場から明らかに必要だ)、他方、セールスマンにとっては、目の前に手数料稼ぎの機会がある以上、顧客にそう言わなければ違法だとするのは酷であるような気もする。

適合性の原則に関する法律的な議論は、いくらか珍妙でもあり、味わい深くもあるのだが、条文の解釈からして曖昧であり、先の筆者の友人の母親のケースのように、投資家を守ることについては「十分には役立ってない」のが現実だ。

もちろん、金融機関側では、金融検査に対する対応や顧客とのトラブルの際に関係する規定なので、適合性の原則を折に触れて意識せざるを得ないから、この原則がある種の歯止めになっている面はあるのだろう。この原則が無ければ、彼らは、もっと際限なく悪くなるのかもしれない。

しかし、一方で、そもそも、この原則が想定するような(望ましい)金融商品勧誘像自体が、本当に「投資家にとっても正しいのか」についても、考えてみる必要がある。

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