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野球

ピッチャーの肘は「球数制限」だけで本当に守れるのか

楽天・安樂、甲子園772球の顛末は?

甲子園で772球!

3年目を迎える東北楽天のドラ1右腕・安樂智大投手の評価が上々です。練習試合から、ここまで3試合に登板して11イニング無失点。先発ローテーションの一角に食い込むのは、ほぼ確実な情勢です。

これまでは真っすぐを中心に、力で打者をねじ伏せようとする典型的なパワーピッチャーでしたが、ここに来て単調さが消えてきたような印象があります。梨田昌孝監督も「ピッチングが大人になった」と褒めていました。

安樂投手と言えば、4年前の春のことが思い出されます。2年生ながら済美(愛媛)のエースとしてセンバツに出場した安樂投手は初戦から決勝まで全5試合に先発しました。決勝の浦和学院戦は6回でマウンドを降りましたが、甲子園で実に772球を投げました。

これに対しては「酷使だ」という声が多方面から上がりました。米CBSスポーツは「まだ体が発育中なのに、正気の沙汰ではない」と批判的に伝えました。

 

当時の安樂投手の主治医は坂山憲史さん。私も面識があります。愛媛県柔道協会評議員、愛媛県体育協会スポーツ医科委員も務める熟達の整形外科医です。

帰郷後、安樂投手は坂山さんが勤務する病院に行き、MRI診断を受けました。所見は「骨挫傷」でした。ただし、これは投げ過ぎによるものではなく、3回戦で右腕の前腕に強襲打を浴びたことが原因でした。

球数よりも合理的なフォームを!

先頃、出版された『豪腕』(ハーパーコリンズ・ジャパン)という本が私の手許にあります。著者のジェフ・バッサンさんは「米Yahoo Sports」などで執筆するベースボール・コラムニストです。

<使い捨てられる15億ドルの商品>という謳い文句が刺激的です。

著者によると、MLBが投手につぎ込むカネは<15億ドル>(約1710億円)とのことです。

<投手の故障によって年間5億ドルを失っている。毎シーズン、投手の半分以上が故障者リスト(DL)に載り、その期間は平均約2ヵ月。今日の大リーグでは投手の4分の1の肘にトミー・ジョン手術によるジッパーのような傷跡がついている。>

著者は松山にまで赴き、坂山さんにも会っています。安樂投手のヒジについては「とても、きれいな骨だ」という言葉を引き出しています。

しかし、センバツが終わっても右ヒジの状態は回復せず、安樂投手率いる済美は、それ以降、甲子園に出場できませんでした。

「高校2年の世界大会で夏の優勝投手の高橋光成(前橋育英高~埼玉西武)君と一緒になった。その時に、高橋君からスライダーを教わったようなんです。慣れない変化球を投げたことでヒジを悪化させたこともありました」

坂山さんは、そんな裏話も披露してくれました。では、若年層の投げ過ぎ批判については、どう考えているのでしょう。

「少年時代からの投げ過ぎは、将来を考えた時、大きなリスク要因になります。だけど、米国のように球数さえ制限すればいいというものではない。専門医の立場から言わせてもらえば、合理的なフォームこそがヒジ、肩関節を守ってくれるものなんです」

果たして16歳で投じた772球の顛末は……。安樂投手にとっては真価が問われるシーズンになりそうです。