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中国国内でも盛り上がりつつある人民元「変動相場制」移行説
早ければ2017年末にも実現か!?

データを用いた計量分析の有用性

先日、筆者は、某省で開催された中国に関する政治・経済のついての研究会で、中国の政治経済分析の専門家を前にプレゼンテーションする機会をいただいた。

筆者は、中国経済を専門とするエコノミストではないため、専門家を前にしてかなりの緊張を強いられたが、プレゼンテーションの内容に対しては好意的なご意見を多く頂戴した。また、筆者にとってはかなり参考になるご意見を伺うことができ、大変有用な研究会となった。この場を借りて、関係者の皆様には厚く御礼申し上げたい。

筆者のプレゼンテーションの内容は、「中国人民元がいつ変動相場制に移行するか」というものであった。

筆者は、人民元の対ドルレート、中国の外貨準備高、中国と米国の市場短期金利差のデータ等を用いて「通貨危機モデル」を推計した。そして、その結果をもとに、「人民元の変動相場制への移行はもはや必然になりつつあり、タイミングとしては、今年の終盤頃から意識しておくべき段階に入るのではないか」という「仮説」を述べた。

これに対して、会場からは、①中国国内の経済政策を担当する官僚や経済学者の中にも、なるべく早く人民元を変動相場制に移行させるべきと考えている人がかなり多くいること、②しかも、その数は今年に入ってから急速に増えつつあること、③したがって、筆者のプレゼンテーションもあながち「机上の空論」として無視することはできないこと、等のコメントをいただいた。

 

筆者は、公表データを「計量モデル」に当てはめた結果を発表しただけであり、中国国内での議論やニュースソースなどの「定性的な情報」は一切含んでいなかったが、(当たり前だが)国内事情に詳しい中国経済学者や経済政策を担当する官僚らの間でも同様の議論がなされていることがわかり、我が意を得た感があった。

今後の展開はもちろん、中国経済の動向や対外環境次第で流動的であるが、データを用いた計量分析の有用性をあらためて確認できた。

固定相場制を維持するためのコスト

ところで、筆者が依拠した「モデル」の概要は、先週の当コラムで既に言及した通りである(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51041)。

あらためて簡単に説明すると、これは、カリフォルニア大学バークレー校の教授であるモーリス・オブストフェルド氏の考案した「通貨投機の『第二世代モデル(A Second-generation model)』」と呼ばれるものである。

具体的には、為替制度として、固定相場制、もしくは、「クローリング・ペッグ制」を採用している国が何らかの理由で外貨準備の減少に見舞われた場合、将来時点での外貨準備の枯渇を予想して、為替マーケットの投機家によって、「通貨の売り浴びせ」が発生した場合に、どのようなプロセスと時間軸で、当該通貨が変動相場制への移行を余儀なくされるか、ということを定量的に示したモデルである。

この「第二世代モデル」は、かのポール・クルーグマンらが提唱した「第一世代モデル」を発展させたものである。「第一世代モデル」では、固定相場制の下では、金融政策が国内経済の成長のための資金供給に割り当てられた場合、固定相場の維持のためには、外貨準備を使って「自国通貨買い・他国通貨売り」の為替介入を余儀なくされる。

だが、この為替介入は外貨準備が尽きた段階で実施不可能になるため、投機筋が外貨準備の減少ペースなどを観察することによって、外貨準備の枯渇が実現しそうなタイミングで通貨投機を仕掛けると、当該国の通貨当局は固定相場制を放棄し、変動相場制に移行せざるを得なくなる、というものであった(金融政策が固定相場の維持に割り当てられると、金融引き締めにより国内経済が失速する)。