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人材の草刈り場と化す東芝…最大の懸念は原発エンジニアの流出だ
福島第一の廃炉作業に不可欠

社長のメッセージが響かない

東芝が米国の原子力事業で7125億円にのぼる損失を明らかにした2月14日、予定より2時間以上遅れて記者会見を開く前に、綱川智社長は社員に向けてメッセージを読み上げていた。

社内に配布された速記録にしてざっとA4版2枚。原発事業で巨額の損失に陥った事実関係を述べたうえで、乗り越えなければならない2つの山として「期末の株主資本や純資産(の維持)」と「資本市場への復帰」を上げた。

そして締めくくりにこう述べた。

「東芝が築いてきた技術、品質、そしてお客様からの信頼は、(中略)皆さん個々人の情熱から生まれてきたものだと思います。東芝をつくっているのはそういう皆さん一人ひとりです。

皆さんには大変なご苦労をおかけしますが、今、心折れることなく、どの職場にあっても、商品・サービスに愛情と責任を持ち続けていただきたい」

綱川社長の必死の呼びかけも多くの社員には虚しく響いた。

巨額の損失を生み出し、今、東芝を危機に追い込んでいるのは、東芝の技術や品質の「失敗」ではない。言うならば「経営の失敗」が社員を明日をもしれぬ状況へと追いやっている。

当然、沈みかけた船からは逃げ出す社員たちが少しずつ増えている。

「A君は珍しく有給休暇をとっているけど、転職の面接に行っているのではないか」

職場ではそんな会話が小声で語られているという。

 

問題は原発のエンジニア流出

若手の社員や優秀な技術者ほど、転職のハードルは低い。つい数年前まで名門企業だとみられていた東芝には優秀な人材が豊富にいる。そんな人材が他のメーカーや商社、コンサルティング会社などへと流出している。

「昨年末の巨額損失の公表以降、東芝は草刈り場になっている」と転職コンサルタントは言う。

理科系の人材は日本では大学の研究室と企業の結びつきが強く、なかなか外資系では採用が難しい。とくに一線で働く優秀な人材を外資系が雇うのは至難だった。それが人材確保のチャンスが到来していると外資は見ているという。

米国のGEやドイツのシーメンスなど大手にとっては、日本でのプレゼンスを一気に高める好機が来たことを意味している。

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東芝からの人材流出で最も懸念されているのが原子力部門だ。東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故対応には多くの東芝のエンジニアが関わっている。そうした人材が東芝から抜けていけば、福島第一の廃炉や汚染水処理もままならなくなる。

「しかも、東芝の原子力を辞めていく技術者の中には、もう原子力は結構だと言って、他の分野に移っていく人も少なくない」と東芝の関係者は言う。

そうなると、これは東芝という会社だけの問題ではなくなる。福島第一の事故処理は、国をあげての緊急事態対応である。一義的には東京電力に処理責任があるとはいえ、東京電力自体の経営がままならない中で、国が責任をもって対策に当たるしかない。

だからこそ、国が東芝を助けるに違いない、という見方が証券市場などにも存在するわけだ。福島第一や今後の原発の廃炉には東芝の技術が不可欠だから、東芝を何としても残すだろう、というわけだ。

だが、現実には東芝を救済するのはたやすいことではなさそうだ。

東芝が「当社の責任において当社としての見通し及び見解を記述したもの」として公表した2016年4~12月期の連結決算は最終赤字で4999億円。12月末の株主資本は1912億円のマイナスである。しかも監査法人のレビューが通らず、決算ができない異例の事態となっている。