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敏腕記者、敏腕編集者、敏腕校閲者…ほれぼれするプロたちの仕事
リレー読書日記

ゲラの上の勝負

今回の三冊は本当に偶然だが、私が存じあげる方たちの著作が並んだ。

まず『「本をつくる」という仕事』を書いた稲泉連さん。2005年、当時26歳で『ぼくもいくさに征くのだけれど』で大宅賞を受賞した。

受賞作は、映画監督志望の若者が23歳で戦死するまでの思考の軌跡を彼が遺した詩に追ったもので、実は私も全く同じテーマでドキュメンタリーの企画を書いていた。だが稲泉さんの本を読み、これを上回る取材は無理だなとあきらめた。

その稲泉さんに去年、拙著の取材をして頂いた。幸運である。わずかな分量の記事のために長々と取材をされて当惑することが時々あるが、稲泉さんの頭には構成がすでにあり、質問は的確だった。淡々と作業を終え、にこやかに風のように引きあげていく姿に「あ、この人はプロだな」と思った。

その稲泉さんが「本をつくる」プロたちをたっぷり取材したのが本書だ。活字、製本、印刷校正、製紙、装丁と、裏方たちの仕事の深みはもちろん、そこに至る人生の凹凸までも披露する。取材する側もされる側も、紙の本が大好きな人たちだ。

敏腕校閲者の話には響くものがある。昔の手書きの生原稿には作家の思考の流れが刻まれていた。松本清張や五味康祐のエピソードが面白い。校閲する側も誤植探しに留まらず、作品全体の文脈を掴む必死の努力をし、編集者顔負けの指摘をした。共同作業でありながら、まさにゲラの上での勝負のようだ。

 

装丁家の「紙の本は美しくなければ」という言葉にも納得する。わが書斎には徳川夢声の本が並んでいるが、どの装丁も凝っていて、カバーの下に手書きの花が現れたりして愛着深い。職人たちの仕事は、電子書籍の世界とは全く異なる趣を与えてくれる。

広島は歳を取らない

言葉はこうして生き残った』は、新潮社の『考える人』編集長の河野通和さんが配信記事をまとめたもの。品格ある書評集でいて文明論のようにも思える奥深い一冊だ。

手前味噌で恐縮だが、拙著『原爆供養塔』も取り上げられている。河野さんから取材を受けた時、自分はこの方向で書く、ひいてはこんな写真を、いつまでに提供せよといった「直球」メールが矢継ぎ早に送られてきた。「この人も、ただ者じゃないな」と思ったら、元中央公論社の敏腕編集者だった。

河野さんが350頁を越える拙著の中から切り取った言葉は、私自身、取材の時に一番大切にしていた一言だった。95歳になる被爆者の女性は、マスコミの常套句「被爆○○年」という表現に、「生きとる者は勝手に歳を刻んでいくが、死んだ者はあの日のまんま、広島に歳はない」と語った。

あの戦争を勝手に過去の話にしてしまっているのは、自分を含め心に痛みを持たない者たちの所業であると痛感した。本書には、本の世界に長く関わり続ける河野さんの哲学が滲んでいる。