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直木賞作家・東山彰良が小説を書くきっかけになった本

人生最高の10冊

無職のころに手に入れた百円本

小説を書くようになったのは30歳を過ぎてからです。

きっかけを与えてくれたのは米国犯罪小説の大御所、エルモア・レナードの『グリッツ』。20代半ばの頃、英語力を高めたくて原書で読んだんです。

学生時代から何度か東南アジアを旅していたんですが、もっと長い旅をしたいと思うようになった。そのために必要なのは筋肉と語学だと思い、筋トレと英語の勉強をはじめました。「台詞が多いから英語でも読みやすい」と薦められて読んだのが『グリッツ』の原書でした。

この作品からレナードが好きになり、友人が米国から帰国する際は、未翻訳作品を持ち帰るように頼んだりもしました。今回あげた10冊はレナード同様に、今も、ものを書く上で影響を受けている作家の本です。

 

酔いどれ作家として知られるブコウスキーの『くそったれ! 少年時代』は、僕が30歳ぐらいの頃に読みました。単行本が2800円したんですが、当時無職だったものでお金に余裕がなく、買えずにいたんです。ところが運よく、近所の貸本屋の閉店セールでたった百円で売られていて、すかさず買いました。

この作品はロサンゼルスの下町を舞台にした自伝的な青春記で、こんなロックな作家がいるんだと、レナードのときと同じぐらいの衝撃がありました。ブコウスキー作品はたくさん読み漁りましたし、今でも落ち込んだときは、彼の作品を読み返します。

「父親から芝刈りをするように言われ、一本でも刈り残しがあったら折檻されたんだ」と壮絶な半生を語るシーンが印象的なドキュメンタリー映画にも励まされています。

40歳になり、自分には作家として、読書量が足りてないと思い、読んだのがセルバンテスの『ドン・キホーテ』。これが面白く、自分にはラテン文学が合っているかもしれないと、リョサの『世界終末戦争』、『都会と犬ども』を読み、さらに勢いで若い頃に難解過ぎて、数ページで挫折していたマルケスの『百年の孤独』に再チャレンジして読破しました。

自分が書きたい物語とは

百年の孤独』の魅力は物語の中に死者が平然と登場する、四次元的な世界です。また、マルケスとリョサが対談でこの作品について語っています。

ある娘がシーツを干しているときに風で飛んでいってしまうところが印象深いとリョサが言うと、マルケスは自分が昔住んでいた所で同じようなことが起こったと言う。もちろんウソなのだろうけど、『百年の孤独』には、そんな不思議な小話がいっぱい盛り込んである。

マルケスなどのラテンアメリカ文学に通ずる現実と幻想の世界を混合し表現する『マジックリアリズム』という手法には、非常に影響を受けました。

次の『素晴らしきソリボ』は、冒頭に「謝肉の日曜日と灰の水曜日の間に、語り部ソリボ・マニフィークは言葉に喉を掻き裂かれて死んだ。」という一文で始まります。

言葉に喉を掻き裂かれる? 文字で書かれた記述文学に慣れている人は入り口で立ち止まってしまいそうですが、これは物語の舞台となるフランス領だった島の住民の言葉。島民は文字をもたずに口承で生きてきたために、独自の表現になっているのです。