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企業・経営

PPAPにマリカー…最近、知財のトラブルが増えているのはなぜ?

「森のくまさん」騒動もありました

今年に入ってからますます、知的財産権に関するニュースが世間を騒がせていることにお気づきだろうか? 『楽しく学べる「知財」入門』の著者・稲穂健市氏に、「最新知財ニュース」をわかりやすく解説してもらった。

「マリカー」はアウト? それともセーフ?

月末の金曜日に早期退社を促す「プレミアムフライデー」が始まった2月24日、公道を走るカートのレンタルサービスを行っている「株式会社マリカー」(東京都品川区)を、任天堂株式会社(京都市南区)が訴えた。

同社が問題としたのは、「マリオカート」の略称である「マリカー」を会社名として使っていることや、「マリカー」社がカートをレンタルする際に、任天堂のゲームキャラクター「マリオ」などのコスチュームを客に貸し出し、さらに、それを着用した客がカートを運転する画像や映像を、宣伝・営業に利用している点であった。

任天堂は、これらの「マリカー」社の行為が不正競争行為と著作権侵害行為に該当すると主張し、その差し止めや損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたのである。

筆者が住んでいる仙台市内で見かけたことはないが、都内で初めてこのカート一群を目撃したときは、かなりの衝撃を受けた。不正競争防止法や著作権法よりも、道路交通法の観点からどうなのかが気になったくらいである。

素人目では、「マリカー」社の行為は完全に「アウト」のように見える。だが、すでにネットで弁護士や弁理士が指摘しているように、裁判所が不正競争行為や著作権侵害行為を認定するには、それらに該当するための様々な要件が満たされる必要がある。

 

個人的には、今回のケースは「マリカー」社側に不利と考える。が、「マリカー」といった紛らわしい会社名を避けつつ、普通のデザインの「赤い帽子」「赤いシャツ」「青い吊りズボン」を貸し出して同様のサービスを提供していれば、任天堂が裁判に訴えるのは難しかったかもしれない。「丸い大きな眼鏡」「黄色いシャツ」「紺の半ズボン」というコスチュームだけで「のび太」のパクリと言い切れないのと同じ理屈である。

ここで、知的財産権に多少詳しい方であれば、「どうして商標権の話が出てこないのだろう?」と思われたかもしれない。任天堂は登録商標として「MARIO KART/マリオカート」(商標登録第4222218号)などを押さえてはいたが、「マリカー」は押さえていなかった。

その代わりに、「マリカー」社が、2016年6月に「マリカー」(商標登録5860284号)を商標登録している。任天堂が同年9月にその登録に対して「異議申立」を行っているので、同社が5ヵ月前からすでに問題視していたのは間違いないようだ。

JASRAC、音楽教室、「森のくまさん」の替え歌

ところで、知的財産権には、著作権商標権のほかにも、特許権実用新案権意匠権などがある。また、著作権に関連する権利として、著作者人格権や著作隣接権といったものまである。さらに、今回の「マリカー」のケースでは、著作権侵害に加えて不正競争行為に該当するという主張もなされている。

知的財産権に関するニュースが一般に理解されにくい大きな要因は、このように複数の権利が存在する一方で、知的財産権の全体像についての説明がなく、その一部が断片的に取り上げられて伝えられることにあると考えられる。

たとえば、2月2日、JASRAC(日本音楽著作権協会)が音楽教室から著作権料の徴収に乗り出す方針を示し、大きな騒ぎへと発展した。JASRACは音楽著作権の管理団体の最大手であり、作詞家・作曲家から音楽出版社を通じて著作権の信託譲渡を受けている。JASRACが法的な著作権者となることで、音楽の集中管理を容易としているのだ。

だが、じつのところ、「替え歌」については、JASRACは許諾することができない。なぜなら著作権のひとつである編曲権はJASRACに譲渡されていないうえに、意に反して作品を改変されない同一性保持権を含む著作者人格権は、作詞家・作曲家に残ったままだからである。