国際・外交
強姦、略奪、そして暗殺…ミャンマーでいま、何が起こっているのか
早速黄信号がともったアウンサン政権

アウンサンスーチーが実権を握る新政権がミャンマーに誕生したのは昨年春のこと。半世紀にわたり国軍の強い影響下にあった同国で、民主化勢力への「政権交代」は歴史的な快挙だった。国民はアウンサンスーチーに大きな期待を寄せ、国内外のメディアはノーベル平和賞受賞者の勝利を、称賛を持って報じた。

あれから間もなく一年。国民の熱狂は徐々に冷め、西部ヤカイン(ラカイン)州の少数派イスラム教徒ロヒンギャに対する人権侵害で口をつぐむ姿勢に、国際社会の視線は厳しさを増す。その最中に起きた、国民民主連盟(National League for Democracy=NLD)法律顧問の暗殺事件。アウンサンスーチー政権は早くも窮地に立たされている。

『ミャンマー権力闘争 アウンサンスーチー、新政権の攻防』(共著・大橋洋一郎)を執筆した藤川大樹氏の特別レポートを公開する。

強姦、強奪…ロヒンギャ女性の悲痛な証言

昨年10月9日。ヤカイン州の国境警備隊の詰め所が武装グループに襲撃され、9人の警察官が亡くなった。ミャンマー国軍と国境警備隊は、ロヒンギャの過激派によるテロとみなし、同州北部で過激派の「掃討作戦」を展開。即決処刑や財産の略奪を行い、家屋など少なくとも千五百軒を焼き払った。国連の推計で6万9000人が隣国バングラデシュに逃れた。死者は1000人を超える恐れがあるという。

国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」の調査員が昨年末から今年一月にかけ、28人のロヒンギャに聞き取り調査をしたところ、少なくとも九つの村で国軍兵士らが集団強姦や違法な身体検査などの性的暴行をしていたことが明らかになった。被害者の中には、13歳の少女も含まれていた。

「兵士たちは、女性全員を一カ所に集めると、竹の棒で殴り、軍靴で蹴りつけました。その後、私や、私と同年代の女性15人を別の場所へ連れて行き、強姦しました。私が足で抵抗すると、一人の兵士が私の目を殴り、別の一人が膝を蹴り飛ばしました。彼らは顔を噛み、爪で傷つけました。私は出血し、意識を失いました。気付くと、私の周りに切り裂かれた衣服がありました。私はスカートを見つけ、体を包みました」(20代の女性)
 
「20人の兵士が家に押し入り、うち二人が私と夫を外へ連れ出しました。別の二人が私の頭にライフル銃を突きつけ、衣服を引き裂き、強姦しました。彼らは目の前で夫をマチェーテ(山刀)で殺害しました。さらに三人の男から暴行され、出血しました。しばらくすると、私は意識を失い、何が起きたか分からなくなりました。意識を取り戻したのは翌朝でした。私は金のアクセサリーを手に川へ行き、それを代金として支払ってボートで対岸のバングラデシュへ渡りました」(40代の女性)

 

報告書には、ロヒンギャの女性達の悲痛な証言が続く。兵士らは暴行の最中、女性に銃を突きつけ、「テロリストをかくまっているのか」「俺たちを殺すために子供を育てているのだろう。子供も始末してやる」と脅したという。ライフル銃の銃身を性器に挿入された30代の女性もいた。国軍兵士による性的暴行は、国連高等弁務官事務所の報告書でも言及されている。

国軍の暴走をコントロールできず、介入に消極的なミャンマー政府に対し、マレーシアのナジブ首相が「アウンサンスーチーは何のためにノーベル平和賞を受賞したのか」と公然と批判するなど、国際社会からは非難の声が相次いだ。慌てた安全保障担当の政府顧問・タウントゥンは2月15日になってようやく、「ヤカイン州北部での状況は安定した。国軍による作戦は終了し、警察だけが治安維持のために留まっている」と、昨年10月から続いた掃討作戦の終結を宣言した。

ただ、事態が解決したわけではない。首都ネーピードーを拠点に活動する外交関係者は言う。

「ミャンマーでは仏教ナショナリズムが高まり、過激派仏教徒の影響力が強まっています。今回の掃討作戦で多くのロヒンギャがバングラデシュに避難したことを『これ幸い』と感じている仏教徒も少なくありません。アウンサンスーチー政権がロヒンギャに肩入れすることはないでしょう。ロヒンギャ問題の解決は、ほぼ不可能です」