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野球
「巨人・小林は正捕手の器ではない」江夏豊の言葉の真意
【プロ野球特別読み物】 器とは何なのか

人間の器量は目に見えない。壮大な器に能力が満たされていない人もいれば、小さな器に精一杯満たした能力で勝負しなければいけない人もいる。専門家の言葉を通して、『器』の本質に追る。

「監督の分身」になれるか

今季、3シーズンぶりの王座奪回をめざす巨人投手陣の主力級のそばには、必ず背番号22がいる。キャンプ中のブルペンでエース菅野智之や他球団から移籍してきた吉川光夫、森福允彦の投球を積極的に受けにいくのは、4年目の小林誠司(27歳)だ。

彼らが投げ終わると、小林は声をかけ、2人で投球を省みる。そこに、3年前まで正捕手だった阿部慎之助(37歳)が投手を叱咤激励する姿はもうない。

この光景をみる限り、今年の正捕手は小林だ。しかし、そこに異を唱える男がいる。江夏豊。伝説のストッパーだ。

彼は『週刊プレイボーイ』に寄稿する連載「江夏豊のアウトロー野球論」の中で、巨人軍の補強についてこうとりあげている。

〈問題は、投手陣を引っ張る捕手をどうするか――。というのも、自分は小林誠司の技量・力量を疑問視している。はっきり言って、彼は控え捕手として能力を発揮できても、レギュラーになれる器ではない〉(1月30日号『大型補強の巨人に問う! なぜ投手陣を引っ張る「正捕手」を獲らないのか?』)

江夏が書いた〈レギュラーになれる器〉とはどういうことを意味しているのか。評論家の野村克也氏は、こう解説する。

 

「私は捕手のレベルを分類するときに『一軍にいられる捕手』『正捕手』『名捕手』と段階を分けるんだけど、私の評価では小林はまだ『一軍にいられる捕手』にも入らない。捕手としての技術、投手のリードについて、基礎もできていないと思う。

捕手とは『守りにおける監督の分身』。

だから正捕手は、自軍が守備につくたびに監督から全権委任状を受け取っている。自分の指示がないと始まらない、という意識と誇りが必要なんです。

また捕手は『女房役』とも表現されるように、投手の持てる力を引き出す『補い手』も担う。捕手は『捕り手』と書くけど、個人的には『補手』にかえてほしいぐらい」

野村氏は、阿部が故障により、一塁に転向したことと、その年を境に優勝から遠ざかっていることは、決して無関係ではない、と分析している。

「阿部も入団当初は未熟だった。もともとの性格は投手タイプ。最高の球を投げることに徹し、その球を打たれたら仕方がないと考える、典型的なプラス思考。

でも、捕手は投手のそんな性格に同調してはダメなポジションです。『打たれないようにするにはどうすればいいか』という備えが常に求められる。

阿部は、一球たりともおろそかなサインを出せない日本シリーズを何度も経験して、打者の観察眼が格段にあがったし、'12年の日本ハムとの日本シリーズではサインを見落とした澤村(拓一)の頭をマウンド上ではたいた。あのシーンなどは、『チームを勝たせる』という並々ならぬ使命感が表れていた。

でも小林は昨年の夏、首位・広島との直接対決で、マウンド上のエース菅野に変化球を要求したのに、菅野が首を振り、安易に投げた直球を広島の投手・福井優也に打たれた。そこから大量失点で逆転負けを食らった。

エースに首を振られても、慎重さが要求される場面では出したサインを簡単に変えてはいけない。『オレの言うとおりに投げてこい』ぐらいの信念が必要なんです。今の小林ではまだ、『監督の分身』にはなりきれない」

肝は据わっているか

小林は昨シーズン、129試合に出場して12球団の捕手の中で唯一、規定打席に到達しただけでなく、盗塁阻止率・356も12球団No.1。それでも厳しい目にさらされている。なぜなのか。