防衛・安全保障 憲法

日本はずっと昔に自衛隊PKO派遣の「資格」を失っていた!

誰も言わない本当の論点
伊勢崎 賢治 プロフィール

日本には部隊を派遣する「資格」がない!?

日本にとって決定的に重要なのは、次の二つの条項だ。

第3条 兵力地位協定
「国連と、国連部隊が展開される領域の国との間で結ばれた兵力地位協定において、国連は、国連部隊が軍事要員の行動に適用される一般的条約の原則および規則を完全に遵守して作戦を遂行することを約束する。国連はまた、国連部隊の軍事要員に、これら国際条約の原則および規則を周知徹底させることを約束する。前述の原則および規則を尊重する義務は、兵力地位協定がない場合でも、国連部隊に適用される。」

それぞれ国籍と文化が違う部隊の寄り合い所帯のPKOでも、そこをなんとか一つの司令で統率しなければならない。それを可能にするのが国連地位協定だ。

これは、例えば日米地位協定のような二国間のものに比べると、部隊派遣国に圧倒的に有利なもので、公務の内外を問わず、受け入れ国側に裁判権はない。国連だからこそ、引き出せる特権であるとも云える。

この特権を担保に、国連は各国の部隊に言うことを聞かせるのだ。もちろん、自衛隊も、この仕組みの中に組み込まれてて、この意味で、自衛隊は、他の部隊と同じく、国連PKO司令部の指揮下にあるのだ。東京の、ではない。

第4条 国際人道法
「国際人道法に違反した場合、国連部隊の軍事要員は、それぞれの国内裁判所で起訴の対象となる。」

国際人道法の違反とは、すなわち「戦争犯罪」。国連部隊がそれを犯した時の法体系が、この簡潔な一文に凝縮されている。

これを車に例えると、「国際人道法」を車軸に、両輪は、「国連地位協定」と「各部隊派遣国の国内法廷」だ。

つまり、国連地位協定で現地法から訴追免除されている国連部隊が犯した国際人道法の違反行為は、各部隊派遣国の国内法廷で裁く。裁けるのは、国内法廷しかない、この地球上に。国内法廷とは、普通の国では、軍事法廷のことだ。

当たり前だが、国際人道法違反を処罰できる国内法廷のない国は、国連部隊に派遣できないのだ。もしそんな国が違反行為を起こしたら、それはつまり、国連自らが「不処罰の文化」を許したことになってしまう。だから国内法廷を有することは、部隊派遣国の、当たり前過ぎてそう呼ぶまでもない「義務」なのだ。

日本はどうか。

日本は遅ればせながらジュネーブ諸条約追加議定書に加盟した2004年に、国内法として「国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律」をつくった。

しかしこの内容は、文化財の破壊や捕虜の輸送を妨害する罪への処罰だけで、肝心の殺傷行為に関するものが一切ない。なぜなら、9条的に自衛隊は国際人道法上の交戦の中に存在できない。自衛隊がいるところでは「戦闘」は起き得ないからだ。

あとは刑法しかないが、日本の刑法には国外犯規定があり、日本人の海外での過失行為は裁けない。つまり、自衛隊が海外で犯す人権侵害は、任務中つまり業務上過失と認定されれば裁かれないことになる。

よって、日本は、国際人道法の違反行為を、この告示の意思に従って裁くための国内法廷と法律を有していないことになる。つまり、この告示が出た1999年の時点で、国連部隊つまりPKO部隊を派遣する資格が、日本にはないのだ。

日本の「仮想空間」

なぜ、こんな重大で根本的な問題が、こんなに長く放って置かれたのか。

日本にとって国際貢献の象徴であるPKO部隊派遣をやめるか、それとも、改憲か——現行憲法で軍事法廷の機能を持つ仕組みを模索する道があるが、いずれにしろ、改憲を見据えた根本的な議論が必要——という問題だ。

右/左、保守/リベラルの双方が胸に手を当てて考えるべきである。

リベラルの思惑は、改憲というアジェンダそのものを政局でタブー化したい。ただそれだけ。

民主党政権当時、筆者は連立政権の護憲派で知られるある党の党首に、PKOのマンデートが住民の保護に変われば撤退できなくなる、ここで自衛隊の「紛争の当事者」としての法的な地位に関する根本的な議論を国会でしなければならないと、わざわざ説得に出向いたことがある。

返答は、個人的には全くその通りだと思うが、党としてはできない、「改憲」の問題になってしまうからということであった。この党首は個人的に親しいので糾弾するつもりは毛頭ない。しかし、これが根本的な議論を阻む「政局」である。

だから、リベラルの側も、自衛隊が送られる現場の現実を憲法に合わせるために歴代政府が生み出してきた数々の発明をそのまま受け入れてきた。それらの発明とは、戦場で全く弾の飛んでこない自衛隊のためにつくられた「仮想空間」である。

それらは、「後方支援」(通常の施設部隊=兵站部隊に前方も後方もない)、「非戦闘地域」(こんなものが存在したら軍隊は基地を造る必要はない。基地を一歩出たらそこは戦場)、「(武力行使と一体化しない)一体化論」(前述のように、国連地位協定をベースに自衛隊に限らず全ての多国籍の部隊は国連の指揮下に一体化する)などだ。

こんな、現場に足を運び、現地の日本大使館の便宜供与の影響をなるべく阻止して(彼らは必ず妨害するから)、国連PKO司令部の関係者と密に話せばわかることを、常に権力の監視者であるべき野党が、メディアが、「改憲」を政局の俎上にのせたくないディフェンス・メカニズムで怠ってきたのだ。

こうやって9条が守られてきた。