防衛・安全保障 憲法

日本はずっと昔に自衛隊PKO派遣の「資格」を失っていた!

誰も言わない本当の論点
伊勢崎 賢治 プロフィール

この告示は、国連広報センターのHPにある。日本の外務省がよくやる恣意的な訳の心配はないので、ぜひ一読をお勧めする(http://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/1468/)。

そして、1949年のジュネーブ諸条約から50年後、満を持して出されたこの文書は、今からでも遅くない、日本の政局、そして法整備の議論の中心にしっかり据えるべきものだ。

交戦に入った時点で…

まず、告示の経緯として、こうある。

「それまで、国際人道法の国連に対する適用可能性について何ら正式な文書がなかったのは、単に国連がジュネーブ条約(および関連するその他条約)の当事者ではなかったからです。

周知のとおり、平和維持自体が国連憲章で成文化されていないということもありますが、平和維持要員は停戦が確保されてからはじめて現地で活動を展開するため、戦闘状態を取り扱うジュネーブ条約を国連部隊に適用する必要性はないはずだとする理解が一般的だったのです。」

しかし、前述のように、武力介入の現場ではいろいろなことが起きる。

「しかし、実際のところ、国連部隊はしばしば、戦闘状態に巻き込まれることがありました。この認識の下、1997年からは、国連と平和維持活動受入れ国の間で締結される『兵力地位協定(SOFA)』に、国際人道法の精神と原則の両方を尊重する義務に関する条項が盛り込まれています。」

「この文書は最終的に、事務総長自らの権限で宣布されました。本件文書は個々の平和維持活動要員に対し、現行の慣習法を反映する形で文書中に規定された基準の遵守を義務づけています。」

このことは何を意味するか。まず、何について適用されるのか。

第1条 適用範囲
「本告示に定められた国際人道法の基本原則と規則は、戦闘員として軍事紛争状態に積極的な関与を行っている国連部隊に対し、その関与の程度および期間において適用される。よって、これらの原則および規則は、強制行動、あるいは、自衛のために武力行使が許されている平和維持活動において適用される。」

南スーダンをはじめ現在多くの国連PKOミッションの筆頭マンデートは「住民の保護」だ。他国の国民を保護するのだ。それは本来その国家の役割だが、国連がそれをやるのだ。その際、住民に降りかかる脅威を武力で排除することは、国連PKOに当然求められる。

一方で、文民、部隊を問わず国連PKO要員を殺傷することは、国際人道法、国連要員の保護に関する条約(the Convention on the Safety of United Nations and Associated Personnel:1994)、国際刑事裁判所ローマ議定書、そして後述する「国連地位協定」において違法化されている。国連要員は非常に大きな保護特権を享受しているのだ。

しかし、部隊は、交戦に入った時点で、その特権を喪失し、国際人道法下の「紛争の当事者」になり、「敵」と同等の地位で統制される存在になる。これは「自衛」のために武力を行使した時も同じだ。

国内法との関係

次に、それぞれの部隊派遣国の「国内法」との関係。

第2条 国内法の適用
「本告示の条項は、軍事要員に対して拘束力を有する国際人道法の原則および規則の網羅的なリストではなく、また、その適用を損なうものでもなければ、軍事要員が作戦中を通じて拘束される国内法に代位するものでもない。」

この条項の前半は、この告示が、部隊派遣国が守るべき義務としてミニマムであることを示している。

例えば、アメリカがキューバのグアンタナモ収容所でやっていた拷問はジュネーブ条約違反だ。だから、捕虜ではなく「犯罪人」だとアメリカは弁明してきた。しかし犯罪人でも拷問はいけない。だから国内法の及ばないグアンタナモでやってきたのだ。ところがトランプ大統領は、軽度の拷問である水責めを認めようとしている。

もし米軍が国連PKOに行ったら、それがたとえ国内法で認められていても、国際人道法で禁止されている拷問は軽度なものでもやってはいけない。こういう意味である。

後半に「国内法に代位するものではない」とある。PKO部隊はそれぞれが各国の国内法を背負っている。ある日本の高名な憲法学者とこれを議論した時、彼は、これを「9条のある日本の自衛隊は9条のまま行ける」と解したようだった。だが、それは間違いである。

一国の軍隊であればその兵員を一つの軍規の下で厳しく統制できる。しかし国連PKOのような多国籍軍はそうはいかない。PKOは基本的に寄り合い所帯なのだ。

本来、どの国も、直接の国益のない国を助けに、アフリカくんだりまで、行きたくないのだ。ここで国連があんまり厳しい規則を設けたら派遣してくれる国がなくなってしまう。国連はあまり無理を言えないのだ。

「国内法に代位するものではない」という意味は、例えば筆者が過去PKOで統括したニュージーランド軍やオーストラリア軍のように、戦闘の際に威嚇射撃を許さない国がある。これは威嚇射撃をしたが間違えて撃ってしまったといういい訳(過失)を認めないことで、武器の使用基準をより厳格に律しているのだ。

国連PKOでは、通常、威嚇射撃を認めているので、この条項は、威嚇射撃を許さない国内法があれば、そちらを優先していい、ということである。

この条項は、日本の事情を想定してつくられたものではない。ましてや、後述で展開するように、軍隊として行動を取りながら軍隊としての責任を取れないヘンテコリンな国の国内法を看過するためのものであるわけがないのだ。

新生・ブルーバックス誕生!